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第55回パグウォッシュ会議年次大会
「ヒロシマ・ナガサキから60年」

パグウォッシュ会議評議会声明

2005年7月27日、広島において

広島および長崎の核兵器による荒廃から60年目にあたる2005年の7月22日から27日まで、広島で開催された第55回パグウォッシュ会議年次大会の間に集まったパグウォッシュ評議会は、核兵器が全地球的規模の安全保障に依然として与えている脅威を深く憂慮している。

広島において前回パグウォッシュ会議年次大会が開催された1995年以来の10年間は、核の脅威をはじめとする全地球規模の安全保障にとって、「失われた機会」の一つであったし、著しい悪化があった。この間に、新たに数カ国が核兵器を保有するに至り、明白な核軍縮はほとんど進まなかった。さらに、新型核兵器が提案されており、軍事ドクトリンは、それら兵器の使用の可能性により大きく依存する政策へと変更されつつある。

冷戦終焉後まもない1990年代初頭における新たな国際的秩序の構築への期待は、過激な国際テロリズム、一方的な軍事的介入ならびに先制攻撃の脅威の台頭、そして、基本的な人間の安全保障にとって必要な進展が見られないことにより、打ち砕かれてきた。

これら全ての問題の解決には、一部の国家の特権ではなく、すべての人間の安全保障に重きを置くことができる国際法や公平性、真の国際協力、地域機構および国際機構の強化についての新たな責務が必要となる。

核兵器

2005年5月、ニューヨークで開催された第7回核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議は、成果を挙げずして終了した。核保有5か国(アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国)は、NPT第6条に則った核兵器の不可逆的な廃絶に向けた明確な行動への消極的な態度を見せた。その中でも特に、会議を妨害しようとするアメリカ政府の姿勢が、NPT再検討会議を失敗に終わらせた。しかしながら、再検討会議で、核物質が軍事的に利用されないための防護の強化をはかると同時に、第4条で認められた民生用の核技術の平等な利用権利などの問題を解決する機会を逃したという点からは、他国もこれらの国々に向けられた非難に対する責任を分かち合わなければならない。

核軍縮の広範な枠組みは崩壊の危機に直面している。包括的核実験禁止条約(CTBT)は未だ発効していない。アメリカやロシアはモスクワ条約で定められた核兵器の削減の規模を拡大し、速めなければならない。また兵器級高濃縮ウランおよびプルトニウムの生産を禁じる兵器用核物質生産禁止条約(カットオフ条約、FMCT)は、その交渉が未だ開始されていない。現存する高濃縮ウランがテロリスト集団の手に渡る危険を避けるため、それらの管理と廃棄のためのさらなる努力が必要である。また、非常に多数の戦術核兵器がヨーロッパやその他の国々に配備され続けている。同時に宇宙兵器の開発および配備への圧力も一部地域には存在する。しかしながら、現在宇宙兵器は実戦配備されていないのだから、国際社会にとって、きわめて重要な民生的価値がある場として宇宙空間を守る時期は、まさに「今」なのである。

高騰する石油価格、新しくより安全な核技術の開発、そして気候変動への懸念によって、エネルギー生産のために原子力を用いることへの関心が再燃している。しかしながら、新世代の原子力発電所や使用済み核燃料再処理施設の建設による、核技術の拡散には、真剣に注目しなくてはならない。中でも、プルトニウムを使用する燃料サイクルには特に大きな注意を払う必要がある。最近の国際原子力機関(IAEA)の報告で示された核燃料サイクルの多国間管理のような選択枝は、核の民生利用と軍事利用の間の障壁を強化する有効な手立てとなるかもしれない。

これに関連し、昨今のアメリカとインドとの間の原子力の民生利用での全面的な協力再開についての話し合いについては、より多くの情報が必要である。我々は、技術の共有や原子力をより安全で効率的に利用することの必要性を認めるが、一方で核兵器国とNPT非加盟国との間で行われるこのような協力は、他の国家の先例となるため、慎重に考察する必要がある。

パグウォッシュ会議評議会は、すべての国家に対して、核の脅威を減少させるための重要で短期的な手段として、NPTへの加盟、CTBTの批准、そしてFMCTの締結を要求する。核の先制使用禁止や核兵器の運搬装置の警戒態勢の解除といった付加的な措置は、危機の際に起こりうる核兵器の誤使用や不注意な使用を防ぐためのさらなる保障となりうるだろう。

さらに、パグウォッシュ評議会は、同じ考えを持った国々が核兵器廃絶に向けた法的、政治的、ならびに技術的な問題点を確認するための建設的な協議を始めるべきだと考える。中堅国家構想によって提言されたように、このような努力はNPT体制への貢献となり、結果として核兵器を禁止し、廃絶させる「核兵器禁止条約」交渉のための枠組みを生み出すだろう。

核兵器は非合法で非道徳なものであると宣言されなければならない。広島の爆心地からわずかの距離の地に集まった我々は、仲間の科学者や市民に対し、いつ何時でも、警告なしに世界中どこででも核兵器が使用されうるという脅威に立ち向かうよう呼びかける。政治家や政府の指導者に対する我々のメッセージは単純ではあるが、明確である。すなわち、核兵器が存在する限り、使われる日が来るのである。

地域紛争

東アジアでは、6カ国協議の再開が朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、北朝鮮)の核問題をめぐる緊張の緩和と交渉の成果を導き出す可能性があるという、よい兆候が見受けられる。2003年初頭の北朝鮮のNPT脱退は、核兵器不拡散体制に対する最も重大な挑戦の一つを投げかけた。朝鮮半島の非核化に向けて北朝鮮が言明している約束を成文化する協定、および北朝鮮のNPTへの復帰は、全世界的な核兵器不拡散への大きな進展につながるだろう。

同様に、南アジアの状況は、インドとパキスタンが関係改善に今後も努め、また、互いに門戸を開くだろうという楽観論を示唆している。カシミール問題についての2004年12月のパグウォッシュのイニシアシブは、これら2国間の数多くの信頼醸成手段のうちの一つの要素である。とはいっても、今後両国にとって、互いの核兵器についての信頼醸成手段を実施していくことが何よりも重要であり、今後起こりうる緊張状態が紛争や核兵器の使用につながることのないよう、大きな注意を払っていく必要がある。

中東の情勢は、当然ながら、はるかに気がかりである。テロリズムや不安定性が、イラクを依然として悩まし続けており、イラクが自ら将来的な政治の基盤を構築できるために必要とされるアメリカその他の外国の駐留軍の撤退の延期にもつながっている。同様の懸念はアフガニスタンにも見られる。イスラエルやパレスチナには、紛争解決のための長い行程が存在する。目下の次の課題は、イスラエル軍のガザ地区からの撤退であり、これに続く公正で平和的な解決に焦点を当てた交渉が再開されなければならない。

パグウォッシュ会議は、大量破壊兵器(WMD)のない中東に向けて多大な努力を行ってきた。問題を複雑にしている要因には、イスラエルの核政策の不透明さがあり、これに加えて中東諸国が未だに生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約の両方、またはどちらか一方に署名ないし批准をしていないこと、そしてイランのウラン濃縮計画の手順や目的に対する解決方法の欠如が挙げられる。

世界におけるこの不安定な地域では、中東アジア非大量破壊兵器地帯の設置のための手段を通じて、核兵器、化学兵器、そしてその存在が予想される化学兵器の脅威を減らすための果敢な手段を講じる必要がある。より広域的には、民主的改革や経済発展を進めるための国際的な協力が、テロリストへの魅力を削ぐことを可能にするだろう。中東地域の安全保障を高めるために、特に重要なことは、イスラエル・パレスチナ間の紛争の解決であろう。

新たに独立した中央アジア諸国やコーカサス地方の国家、東西アフリカ、そして東南アジアといったその他の地域における紛争や不安定もまた、たとえこれらの地域に顕著な核兵器使用の脅威が存在していないにしても、懸念事項である。軍事力による単独的な行動、先制的行動、また過剰使用よりもむしろ、地域内、あるいは国際機関の間での効果的な協力が、紛争を解決するための最適な機会を提示するのである。特に、平和への支持および将来起こりうるいかなる危機に関しても協力を進めることについての対話を、北大西洋条約機構(NATO)と集団安全保障条約機構(CSTO)間、そして欧州連合(EU)とNATO間といった、新旧の戦略的同盟国間で促進していかなければならない。

人間の安全保障

真の世界の安全保障は、食糧、水、保健衛生、教育、経済的機会への平等なアクセスを含めた人間の安全保障の基本的な要素が獲得されない限り達成されないであろう。

広島における第55回パグウォッシュ会議年次大会では、これらやその他のテーマが、ドロシー・ホジキン記念講演を行ったスリランカのC.G.ウィラマントリー(元国際司法裁判所)判事、阿部信泰国連軍縮問題担当事務次長、秋葉忠利広島市長、ジョン・ホルドレン ハーバード大学教授、パグウォッシュ会議のスワミナサン会長とパオロ・コッタ・ラムジーノ事務局長などによってとりあげられた。

2000年に発表された国連のミレニアム開発目標は、2005年秋に国連で再検討されるが、世界中の人々にとって人間の安全保障はますます危険にさらされているという悲しむべき事実が存在している。大多数の人々が、基本的な生存への必需品が欠乏しているという受け入れがたい状態に直面し続けている。これらの不均衡を是正するために、徹底的な国際協力、特に工業国と途上国との間の協力が必要である。これらの不均衡の多くは、人間の安全保障の破壊や紛争につながっているのである。第55回パグウォッシュ会議で提示されたように、有望な新技術が資源の持続的利用に貢献することは明らかだが、その利益は人類に平等に分配されてはいない。すべての人々に対して真の人間の安全保障を促進するために、個々の科学者は、彼らの業績を応用していく責任があることを心に留めておくことと、人間の安全保障達成に向けたメッセージを、公衆、政府、国際機関に届けていくことが決定的に重要である。





第55回パグウォッシュ会議年次大会は、1957年のパグウォッシュ会議創設以来、創設者の一人である元会長ジョセフ・ロートブラット卿が、出席できなかった初めての大会である。パグウォッシュ会議創設のための文書である1955年のラッセル・アインシュタイン宣言の署名者の一人として、ロートブラット卿は、ラッセル・アインシュタイン宣言から50年目の今回の会議に際して、当時の宣言の言葉を引用してメッセージを寄せた。「私たちは人として、人類に対して呼びかける。人間性を心にとどめ、そして他のことを忘れよ。」

パグウォッシュ評議会は、我々すべてがこの精神に則った行動をとることを勧告する。核兵器を決定的に削減し、最終的に核兵器を廃絶させる明らかな進歩が見られなければ、破滅的な危険がわれわれを待ち受けている。パグウォッシュ会議は、各国政府、多国間機関、そして国際NGOに対し、核兵器への誤った依存と、そのような破滅的脅威から国際社会を遠ざけるために先導するよう勧告する。

広島と長崎で起こった悲劇は二度と繰り返されてはならない。

広島および長崎の惨事から60年後の第55回パグウォッシュ会議年次大会は、37カ国から(若手パグウォッシュの参加者29人を含めて)159人が参加して、広島国際会議場において開催された。

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