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会議参加者への歓迎挨拶

2005年7月23日
サー・ジョセフ・ロートブラット

遠方からではありますが、こうして第55回パグウオッシュ会議年次大会へ皆さんを歓迎する挨拶ができるのは、私にとって大きな喜びです。

この大会はいくつかの意味で、非常に大事な大会です。

まず今年は、この都市の頭上で最初の核兵器が炸裂し、その数日後に長崎に同様の攻撃があって、60周年になります。

また、私は存命する唯一の署名者になってしまいましたが、ラッセル=アインシュタイン宣言が発せられて50周年、そして世界平和への貢献を認められてわれわれがノーベル平和賞を受賞してから、今年はちょうど10年にもなります。お察しの通り、このような記念すべき年だという理由だけからも、私は皆さんとご一緒できないことが残念でなりません。年次大会を欠席するのは私にとって今回が初めてなのです。

しかし、この会議を特別に重要なものにしている、他の何よりも重大な、もう一つの理由があります。今年5月、核不拡散条約の再検討会議は、事実上の失敗に終わりました。この大災厄そのものである事態を前に、私たちは、いっそうの力を奮い起こさなくてはなりません。

つきつめて言えば、再検討会議の失敗は、諸国が自分の主権のほんのわずかな部分をも譲り渡そうとしないことに原因があります。NPTにおける核兵器国は、その地位にしがみつき、核軍備を強化しようとさえしています。ある核兵器国などは、世界の他の国々に自分の意志を押しつけるため、軍事力の維持をはかっています。他方で、核保有国からの攻撃を思いとどまらせるために、自らも核兵器の保有に進もうとしている国もあります。このような論理が帰結するところは、世界中の国が核保有国になることです。

そのような世界にしてしまってよいのでしょうか。お互いに対する恐怖心をいつになっても私たちが抱き続ける様子を想像してください。もちろん、そんな状態で私たちは暮らしたくありません。ところが政治家たちがわれわれを連れて行こうとしているのは、まさにそうした世界なのです。なぜ彼らにそんなことができてしまうのか、一つの理由をラッセル=アインシュタイン宣言が指摘しています。

「人は危険が、人類という漠然としか把握されていない存在に対してだけではなく、他ならぬ自分自身、子どもたち、孫たちに迫っているのだということを、ほとんど想像し実感することがない。自分たち一人一人、そして自分が愛する者たちが、苦しみながら死んでいくという差し迫った危険のもとにあるという現実を、なかなか人は認識しようとしない。」

これまでのパグウオッシュの成功は、その科学的で的確な見識によって、政治家たちから一定の敬意を以て遇されてきたことに基盤を持っています。これに基づいてパグウオッシュは、今の事務局長の着任以来、世界の主要な紛争地域の一つで、対立する当事者間の話し合いを促進することを進めてきました。このパグウオッシュの近年の成果を、私は賞賛するものです。

しかし、私は今やパグウオッシュが、科学性を一瞬たりとも損なわないようにしながら、人々の前に、ありのままの事実を示すときがきたと、考えるようになりました。

冷戦の終焉は人々に安堵感をもたらしましたが、現実には、核兵器が紛争で使われる可能性は、これまでになく高いのです。私たちはイギリスで、他の諸団体と連携して、この危険を人々に知らせるための活動を始めました。他の国々のパグウオッシュ・グループも同様に、また、いっそう発展した活動を開始するよう、呼びかけたいと思います。

私はさらに、戦争そのものの廃絶をわれわれは追求しなくてはならないと信じています。それは、ラッセル=アインシュタイン宣言が本来掲げていた目標であって、到達するには、長く困難の多い道のりが予想されます。

戦争の廃絶を目標に掲げることは、必ずしも一般に考えられているような受け身の平和主義を意味しません。それは、幸福と智恵のたゆまぬ増進をもたらす世界、国々の関係を律するのが道徳や法、お互いの尊敬の念であるような世界、どの国も意志を他国におしつけるのに軍事力を使ったりしないような世界を求めつづけること、またそのような生き方を選び取るということなのです。

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