TQFT 2022 Abstracts
TQFT 2022 home
- 花井 奏太 (慶應大)
--- 中性子星・超新星内部のクォーク物質におけるカイラル磁気波と重力波, Chiral magnetic waves in quark matter inside neutron stars and supernovae and resulting gravitational waves
中性子星内部を探求する有効な手段に、天体の振動を解析する星震学がある。星震を調べるためには、天体内部の輸送の理解が不可欠である。近年、素粒子のカイラリティに起因するカイラル輸送が重イオン衝突実験の文脈で研究されている。本講演では、中性子星や超新星内部のクォーク物質において磁場方向の波であるカイラル磁気波が星震として現れることを示す。そしてそれに伴って生じる重力波の振動数と観測可能性について議論する。
- 中西 泰一 (京大基研)
--- 部分系対称性をもつフェルミオン的場の理論の性質, Properties of fermionic field theories with subsystem symmetry
物性物理において注目を集めるフラクトンを記述する場の理論的モデルは部分系対称性と呼ばれる非ローレンツ共変的な対称性を持つ理論であることが知られている.さらに最近,フラクトンに関係すると思われるフェルミオン的な場の理論が構成された.本発表では,このフェルミオン的な場の理論の詳細な性質について議論する.本研究は本多正純氏との共同研究に基づく
- 岩﨑 舜平 (慶大理工)
--- 奇周波数超流動に対する対形成揺らぎの効果, Pairing fluctuation effect on odd-frequency superfluidity
近年、異なる時刻の粒子がクーパー対を形成する奇周波数クーパー対が、超伝導接合系界面で実現したとされる実験報告があり、注目を集めている。本発表では奇周波数フェルミ超流動のBCS-BECクロスオーバー領域における性質について議論する。奇周波数超流動に必要な引力相互作用の遅延効果を取り入れるために経路積分を用い、対形成揺らぎの効果をNozières-Schmitt-Rink理論の枠組みで考慮し、超流動相転移の振る舞いを明らかにする。特に、この系においても強結合極限で分子ボソンが形成され、それがBECを起こすことを示す。
- 宇賀神 知紀 (京大基研)
--- 相対エントロピーと重力理論, Relative entropy and gravity
近年量子情報理論的手法の理論物理への応用が注目を集めている。相対エントロピーは量子情報理論の中心的な概念の一つであり、二つの密度行列の間の距離を定量化する。相対エントロピーは正値性や単調性などの”良い”性質を持っており、それらは熱力学第二法則や、繰り込み群のフローに対する制限(c定理やa 定理)の証明に用いられてきた。AdS/CFT対応は、反ドシッター空間(AdS)上の超弦理論(量子重力理論)と、 あるAdSの境界における重力を含まない場の量子論(共形場理論, CFT)が物理的に等価になることを予想する。そこで(重力を含まない)CFTから、AdS上の重力がどのように出現するのかを理解することは、重力という概念をより良く解明する上で重要な問題ある。 本講演ではその第一歩として、CFTにおける相対エントロピーの計算から、どのようにAdS時空における重力の運動方程式(アインシュタイン方程式)の一部(摂動展開の最初の数項)が読み取れるのかを解説する。
- 堀越 優弥 (新潟大自然)
--- グラディエントフローによるU(1)格子ゲージ理論の磁気単極子, Magnetic monopoles in U(1) lattice gauge theory with gradient flow
格子ゲージ理論において、グラディエントフローをさせて物理量を計算するSFtX (small flow time expansion) 法では、粗視化後の演算子を用いて元の熱力学量を計算する。グラディエントフローでは作用を小さくするように粗視化され、粗視化が進むとゲージ場の強さF_μνは非常に小さくなる。それにもかかわらず、フローさせる前の重要な性質が失われないことは、ゲージ場の強弱ではない何かが系の持つ重要な性質をもたらしていることを意味している。この講演では群のコンパクト性に起因した磁気単極子が重要な役割をするU(1)格子ゲージ理論を例に、グラディエントフローと磁気単極子の関係を議論する。
- 藤本 和也 (東工大)
--- 1次元量子系における揺らぐ界面成長の動的スケーリング, Dynamical scaling for fluctuating surface growth in one-dimensional quantum systems
揺らぐ1次元界面成長は古典統計物理学の枠組みの中で精力的に研究が行われ、Kardar-Parisi-Zhang(KPZ)方程式をキーワードとして、その非平衡ダイナミクスの普遍的側面が明らかにされてきた。ここ数年、古典系で発展してきた界面成長の普遍的な物理が1次元系の量子ダイナミクスで探索され、界面粗さ成長のFamily-VicsekスケーリングやKPZ方程式のPrähofer-Spohnスケーリングなどの動的スケーリングが理論・実験の両側面から議論されている。本講演では、これら最近の発展を紹介する。
- 伊藤 広晃 (阪大理)
--- エネルギー運動量テンソルを用いたキンクの力学的構造の量子論的解析, Quantum effects on the local structure of the kink via energy-momentum tensor
場の理論におけるソリトンは新奇で多様な物理現象を生み出すことが知られており、盛んに研究が行われている。我々が以前行った1+1次元実スカラー$\phi^4$模型のキンク周辺のエネルギー運動量テンソル(EMT)の1-loop計算の結果を踏まえて、サインゴルドン模型において同様の計算を行う。この解析では、赤外発散と紫外発散が生じるという問題がある。 $\phi^4$模型と同様に集団座標法を用いて、赤外発散の源である並進モードをキンク重心の並進運動の自由度に変換することで赤外発散を取り除く。また、紫外発散は真空におけるEMTで引き算することで取り除く。この際、Mode number cutoffと呼ばれる正則化を用いる。得られたエネルギー密度の空間積分が既知のエネルギーの値を再現すること、および応力がEMT保存則と無矛盾であり、並進対称性が尊重されていることを示す。
- 西野 友年 (神戸大理)
--- テンソルネットワーク, Tensor Network
テンソルネットワークは、少数の脚を持つテンソルが網目のように縮約を組んだもので、量子力学系の波動関数や統計力学系の確率分布の記述、そして機械学習や量子コンピューターのシミュレーションなどにも幅広く使われつつある。中でも、Baxter による角転送行列の手法 (1968) は強力な計算手段で、数値計算に話題を限っても様々な形で応用されている。角転送行列の固有値分布、双極格子での角転送行列、古典三次元・量子二次元系での変文計算、多面体模型、スナップショット形成など、角転送行列から色々と眺めて行く。高次元の対応物が何であるか、という未解決の問題にも触れたい。
- 村瀬 功一 (京大基研)
--- 高エネルギー重イオン衝突と相対論的流体ゆらぎ, High-energy nuclear collisions and causal hydrodynamic fluctuations
核子やパイ中間子などのハドロンを構成するクォークやグルーオンは量子色力学(QCD)で記述されます。クォーク・グルーオンは通常の温度・密度ではハドロンの中に閉じ込められていますが、初期宇宙や中性子星内部などの極限状況では解放されてクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)などの新しい形態の物質が現れると予想されています。高エネルギー重イオン衝突実験の目的の一つは、極限状況の物質QGPを人為的に作り出しその性質やQCD相図の構造を解明することにあります。実験で測定されるハドロンの運動量分布から物質の性質を制限するためには、衝突反応を記述する動的模型が必要になります。動的模型の核となるのが局所的に平衡に至った物質の時空発展を記述する相対論的流体力学です。しかし、実験で生成される物質はとても小さく短寿命のためスケール分離の仮定が良いとは言えず、流体力学の正当性が試される系になっています。特に、流体力学の熱ゆらぎ(流体力学的ゆらぎ)の影響が無視できなくなり、これを取り入れたゆらぐ流体の枠組みで衝突反応の時空発展を解く試みがなされています。本講演では、相対論的な系における流体力学的ゆらぎの性質、微分展開について2次の流体における揺動散逸関係の補正、膨張系における"定常"ゆらぎの定理、流体力学的ゆらぎによる状態方程式・輸送係数のくりこみなど最近の話題について簡単に紹介します。
- 西村 透 (阪大理 (勤務地:京大基研))
--- 高温・高密度QCD物質中の相転移に伴う輸送係数の異常, Anomalous transport coefficients associated with phase transitions in high temperature and high density QCD matter
本研究では、QCD 臨界点及びカラー超伝導相転移に起因するソフトモードが重イオン衝突実験における観測量にどのような影響を与えるのかを解析する。これまでに我々は、二次相転移に起因するソフトモードにより、低エネルギー領域におけるレプトン対生成率が異常に増大することを、2-flavor NJL 模型を用いて示した。本研究では新たに、これまでの解析結果の静的極限を考えることで電気伝導率・緩和時間を計算し、またRPAレベルでのクォーク数感受率の結果を考慮することで拡散係数を求めた。本講演では、相転移付近のソフトモードがレプトン対生成率や電気伝導率等の輸送係数にどのような影響を及ぼすのかについて発表する。
- 伊藤 悦子 (理研 iTHEMS)
--- 有限密度2カラーQCD第一原理計算による音速のピークについて, Velocity of Sound beyond the High-Density Relativistic Limit from Lattice Simulation of Dense Two-Color QCD
We obtain the equation of state (EoS) for two-color QCD at low temperature and high density from the lattice Monte Carlo simulation. We find that the velocity of sound exceeds the relativistic limit (cs2/c2=1/3) after BEC-BCS crossover in the superfluid phase. Such an excess of the sound velocity is predicted by several effective theories but is previously unknown from any lattice calculations for QCD-like theories. This finding might have a possible relevance to the EoS of neutron star matter revealed by recent measurements of neutron star masses and radii.
- 森 崇人 (総研大)
--- テンソルネットワークによるエンタングルメント蒸留, Entanglement distillation in tensor networks
We propose that a certain geometric operation in tensor networks corresponds to entanglement distillation in the quantum many-body systems. A state on a bond cut surface is naturally defined from a reduced transition matrix. In this way, we can see the conservation of entanglement manifestly in terms of pseudo entropy. In addition to some analytic calculations of the trace distance between a series of states and the EPR pairs in MERA and MPS, the numerical results in random MERA are in reasonable agreement with our expectations. This talk is based on https://arxiv.org/abs/2205.06633.
- 水田 郁 (理研RQC)
--- 時間周期ハミルトニアンの最適・準最適な量子シミュレーション, Optimal and nearly-optimal quantum simulation of time-periodic Hamiltonians
ハミルトニアンの下での時間発展演算子を実装することは量子コンピュータにおいて最も重要なタスクの一つである。時間非依存のハミルトニアンでは、近年量子ビット化という手法により時間・精度に関して理論上最も効率的なコストで実装されることが示された。一方で、一時間依存ハミルトニアンについて、ダイソン級数展開法が現時点で最良の実装手法だが量子ビット化に比べてコストが大きい。我々は、時間周期ハミルトニアンに着目し、時間依存性があるにも関わらずほとんど時間非依存と同じコストを持つ最適・準最適な実装方法を構築した。
- 近藤 暖 (東京大学(IPMU))
--- 閉じ込め相とヒッグス相に対する新たな視点, New viewpoint towards confinement phase and Higgs phase
通常、有限密度QCDの高密度・低温領域において、閉じ込め相とヒッグス相は相転移なしで移り変わるとされている。2年ぐらい前に、この2つの相の間に相転移があるのではないかと指摘された。("arxiv:2007.08539",PhysRevD.102.105021")相転移があるとすれば、相を区別する対称性は何なのか?という問いを立ててみた。高次対称性が、その役割を担ってそうである。実際にトポロジカルでゲージ不変な演算子を構成してみた。
- 南川 拓哉 (名大)
--- クォーク図を用いたハドロン有効模型の構築方法および、(3,3*)+(3*,3)と(8,1)+(1,8)表現を用いた3フレーバーパリティ二重項模型, Hadronic effective model considering quark flow diagrams, and a 3-flavor parity doublet model with (3,3*)+(3*,3) and (8,1)+(1,8) representations
核子質量には、カイラル対称性の破れに付随する質量とカイラル不変な質量が存在する。この性質を取り入れたカイラル有効模型のひとつにパリティ二重項模型がある。カイラル不変質量による効果は、中性子星内部などの高密度環境下でより顕著に表れる。今回はクォーク図を用いたハドロン有効理論の構成方法と、それにより構成した3フレーバーパリティ二重項模型について発表する。特に、クォーク図を用いると、(3,3*)+(3*,3)表現と(8,1)+(1,8)表現および、パリティ二重項模型が自然と必要になることについて議論する。
- 渡辺 展正 (KEK)
--- 単調性を用いたレプリカ交換モンテカルロ法の拡張と行列幾何学, Extension of replica exchange Monte Carlo methods by using monotonicity, and matrix geometry
レプリカ交換モンテカルロ法では、仮想的な温度パラメータを導入した複数のレプリカ間で配位を交換することで、最小解を効率よく探索できる。本講演では、温度パラメータに対して単調性を持つようなレプリカ作用を準備することで、アルゴリズムが更に効率化出来ることを示す。この手法を通じて、超対称ゲージ理論の配位に対応するDブレーンの位置をより明確に決定できると期待される。その物理的な背景と手法の適用法も報告する。
- 網谷 達也 (東工大)
--- ワイル半金属における動的カイラル磁気効果と不安定性, Dynamical chiral magnetic current and instability in Weyl semimetals
ワイル半金属をはじめとする質量ゼロのディラック電子系では、カイラルアノマリーに起因して、磁場によって電流が誘起されることが知られており、これをカイラル磁気効果と呼ぶ [1]。本講演では、ワイル半金属に時間依存する動的な磁場を印加した際に駆動されるカイラル磁気効果に関する解析を行った研究[2]について発表を行う。本研究では、有効場の理論とカイラル運動論の2つの方法を用い、電磁場に対する線形応答を調べることで、動的磁場によって駆動されるカイラル磁気電流の表式を明らかにした。また、緩和時間近似により散逸の寄与を取り入れ、マクスウェル方程式に従う電磁場の元での集団励起に関する解析も行った。その結果、指数関数的に成長するような不安定なモードが現れることを明らかにした。
[1] K. Fukushima, D. E. Kharzeev, and H. J. Warringa, Phys. Rev. D 78, 074033 (2008).
[2] T. Amitani and Y. Nishida, arXiv:2207.14272
- 滑川 裕介 (広大AIDIセ)
--- Exploration of Efficient Neural Network for Path Optimization Method, Exploration of Efficient Neural Network for Path Optimization Method
We present our attempts to control the sign problem by the path optimization method with emphasis on efficiency of the neural network. We found a gauge invariant neural network is successful in the 2-dimensional U(1) gauge theory with a complex coupling. We also investigate possibility of the improvement in the learning process.
- 西村 健太郎 (KEK)
--- 回転するバリオン物質の相構造:非可換カイラルソリトン格子、反強磁性アイソスピン鎖とフェリ・フェロ磁性, Phases of rotating baryonic matter: non-Abelian chiral soliton lattices, antiferro-isospin chains, and ferri/ferromagnetic magnetization
アブストラクト:カイラルソリトン格子(Chiral Soliton Lattice, CSL)はパリティ対称性が破れた、トポロジカルソリトンが周期的に並ぶ状態である。CSLは十分速く回転するバリオン物質の基底状態として実現すると論文[1]で指摘されていた。今回2フレーバーでクォーク質量が等しい場合に中間子の崩壊定数比$\epsilon=1-f_{\pi}^2/f_{\eta}^2$と角速度が十分大きい領域で、$\pi$中間子凝縮によって先行研究で考えられたCSL($\eta$CSL)状態は不安定となり、非可換CSL状態になることを示した。$\eta$CSLは一種類のソリトンが並んだ状態であるが、非可換CSLではアイソスピンの自由度をもつソリトンの反強磁性アイソスピン鎖になっている。更に非可換CSL状態はアイソスピンがダイマーを形成したダイマー相、完全に分離している非閉じ込め相に分類できる。相構造の決定も行い、ダイマー相は非閉じ込め相、従来知られていた$\eta$CSLとQCD真空三つの相と接しており、三重臨界点が存在することを発見した。
非可換CSL相では並進対称性の自発的破れに伴うフォノンに加えて、アイソスピン対称性の自発的破れに伴うギャップレスのアイソスピノンが生じる。更に磁場との異常結合を考えることで、非可換CSL状態はフェリ磁性、$\eta$CSLはフェロ磁性になることを示した。
今回の研究内容は文献[2]に基づく。
[1] Kentaro Nishimura and Naoki Yamamoto, “Topological term, QCD anomaly, and the eta’ chiral soliton lattice in rotating baryonic matter,” JHEP07 (2020) 196
[2] Minoru Eto, Kentaro Nishimura and Muneto Nitta, arXiv : 2112.01381
- 横倉 諒 (KEK)
--- Unstable Nambu-Goldstone modes, Unstable Nambu-Goldstone modes
通常の連続的対称性および高次連続的対称性の自発的破れに伴う南部・ゴールドストン(NG) モードは、外場の下で不安定になりうる。そのような不安定性を示す例として、時間変動するアクシオン背景場中の電磁波や、背景電場中の動的アクシオンが、それぞれ宇宙論や物性論の文脈で知られている。本講演では、これらの不安定性は、NGモードの持つ普遍的帰結として、対称性の言葉で理解できることを示す。特に、不安定なNGモードの存在やその数が、破れた対称性の生成子の代数から決まることを一般的に示す。この一般論に基づいて、通常の0次対称性の自発的破れ U(1) x U(1) → 1 に伴うNGモードが不安定性を持つシンプルかつ新しい例を提示する。
- 中村 祐介 (長野県松本県ヶ丘高校)
--- 時間依存Bose-Einstein凝縮系に対する非平衡Thermo Field Dynamicsにおける4x4行列形式, 4× 4-matrix transformation for systems of time-dependent Bose-Einstein condensate in nonequilibrium Thermo Field Dynamics
最近、秩序変数が時間依存しない冷却原子BEC系に対する非平衡Thermo Field Dynamics (TFD)の4x4行列形式を用いる定式化を提案した[Physica A, 591, 126732 (2022)]。この定式化で重要な役割を果たす4x4行列によるBogoliubov変換は、TFD由来の2x2行列の熱的Bogoliubov変換と、準粒子を定義するBogoliubov-de Gennes方程式由来の2x2行列のBogoliubov変換の2つが一般化されたものである。この定式化によりon-shell自己エネルギーの定義とそれに対する繰り込み条件が自然に導入される。本発表では、この定式化を凝縮体が時間依存する場合に拡張するとともに、伝搬関数の構造や従来の方法との違いなどについて議論したい。
- 末永 大輝 (理研)
--- 非等方空間におけるpure Yang-Mills理論の相構造: QCDの新しい極限環境としての非等方系, Phase structure of pure Yang-Mills theory in an anisotropic system: A new extreme condition of QCD
QCDの真空構造やハドロンスペクトルの理解に向け、有限温度系や有限密度系といった「極限環境」は有用である。本研究では、格子QCDシミュレーションが可能となる非等方空間を、QCDの新しい極限環境として提案する。特に、非等方系におけるpure Yang-Mills理論の相構造を調べると共に、この新しい極限環境の有用性について議論する。
- 高橋 淳一 (高知大理工)
--- 音響ブラックホールにおけるHawking輻射と重力波発生過程, Hawking radiation and gravitational wave from acoustic black hole
音速点を持つ流体を用いた重力場のシミュレーション、例えばHawking輻射や重力波のシミュレーションが提案されている。本研究では、ブラックホールと重い物質が衝突する際のHawking輻射と重力波発生過程を冷却原子系でシミュレートする。
- 田村 博志 (公立小松大)
--- 2体フェルミ開放系に関連したアフィン変換の代数, Affine transformation Algebras related to Open Quadratic Fermi Systems
2体Fermi開放系の時間発展を記述するマスター方程式に現れるリウヴィリアンの集合を考え、その交換関係による代数がアフィン変換のそれと見做すことが出来ることを示す。また、それを用いてマスター方程式の解の見易い表示を与える。非エルミートハミルトニアンとマスター方程式との関連を表皮効果を例に考える。ボゾン系(調和振動子系)についても、触れる予定。
- 田中 智啓 (東京工業大学)
--- 双対な1次元ボース・フェルミ気体における体積粘性, Bulk viscosity of dual Bose and Fermi gases in one dimension
Lieb-Liniger 模型とCheon-Shigehara 模型はそれぞれ接触型の2体相互作用を伴う1次元ボース気体とフェルミ気体である。これらの模型は双対であり、一方の強結合極限における熱力学量は他方の弱結合極限における熱力学量と一致することが知られている。本研究では、ボソンとフェルミオンの波動関数の対応関係を体積粘性の久保公式に適用し、熱力学量のみならず、体積粘性についても同様な双対性があることを示した。さらに、一方の模型の弱結合領域における体積粘性を摂動的に計算し、双対な模型の強結合領域における体積粘性の表式を導いた。
- Abdi Cendikia (広島大学)
--- Thermalization and Chemical Equilibration in Quark-Gluon Plasma., Thermalization and Chemical Equilibration in Quark-Gluon Plasma.
The matter produced immediately after in relativistic heavy collision is dominated by gluons and far from equilibrium.
This medium then thermalizes and cools down before forming hadrons.
But only elastic collision of partons is not enough to evolve the system into chemical and thermal equilibrium due to the inability to produce entropy and produce or annihilate particles, Thus it has been understood that inelastic collision plays an important role in these two processes.
We prepare initial condition for Au-Au at 200 GeV collision energy in far from equilibrium state with the mini-jet model inside a fixed box with periodic boundary conditions. The system then goes through time evolution in a transport model including elastic and inelastic collision. Chemical equilibration is driven by quark-antiquark production/annihilation from gg→qqbar and gluon radiation/absorption process from gg → ggg channel. We extract the chemical equilibration time scale based on how close the particle density to the Boltzmann distribution function and the thermalization time scale based on the slope of the energy spectrum. To check for consistency, we make a comparison of our result with the well-established transport model BAMPS.
- 芦川 涼 (大阪大学大学院原子核理論研究室)
--- 重クォークQCD臨界点の格子数値解析:微小格子間隔かつ大体積での解析, Lattice numerical analysis of heavy quark QCD critical points: Analysis with small lattice spacing and large volume
化学ポテンシャルを0に固定して温度を上げていったとき、ハドロン相からQGP相への変化はクロスオーバーである。しかし、クォーク質量が重い領域あるいは軽い領域ではハドロン相からQGP相への変化が一次相転移になることが知られている。本研究では、重クォーク領域における臨界点の位置と臨界指数を、格子QCD数値計算上におけるビンダーキュムラント解析を用いて求める。QCDは連続時空における場の理論であるため、時間方向の格子数を増やして格子間隔を小さくする必要がある。また臨界現象は空間体積無限大極限での現象である。従って適切に臨界現象を記述するには空間方向の格子数を増やして空間体積を大きくする必要がある。そこで本研究では、先行研究によるホッピングパラメータ展開を用いたN_t=4における解析を拡張し、格子間隔の小さいN_t=6での解析を大きな空間体積を確保しながら行う。これにより数値計算結果の格子間隔および空間体積に対する依存性を調べる。
- 早田 智也 (慶應義塾大学)
--- 非エルミートハバード模型における界面粗さ成長と動的スケーリング, Surface roughness and dynamical scaling in non-Hermitian Hubbard model
Kardar-Parisi-Zhang方程式の研究に代表される非平衡系の動的スケーリングを量子的な系に拡張する研究が近年精力的に行われている。本講演では相互作用係数が純虚数である1次元非エルミートフェルミオンハバード模型について、実時間発展を符号問題のない量子モンテカルロ法に基づいて計算し、界面粗さ成長と動的スケーリングの解析を行った我々の研究について紹介する。
- 角田 幹樹 (高知大学)
--- 高密度中性子物質の状態方程式:一成分プラズマモデルとのアナロジー, Equation of state of dense neutron matter: An analogy with one component plasmas
観測から推定されている中性子星物質の状態方程式をハドロン物質のみで
説明できる可能性を追求するべく、高密度中性子物質を考える。中性子間の
斥力相互作用を量子ハドロン力学(QHD)により記述し、斥力が働く量子系として、
状態方程式が精度よく計算されている一成分プラズマとのアナロジーに着目する。
クーロン結合定数をQHDにおける結合定数およびベクトル中間子の質量によって
書き換えることにより、高密度中性子物質の状態方程式を評価する。
- 江尻 信司 (新潟大理)
--- 重クォーク領域における有限密度格子QCDの臨界点決定のためのホッピングパラ メータ展開, Hopping parameter expansion for critical point determination of finite density lattice QCD in heavy quark region
重クォーク領域にある一次相転移がクロスオーバーに変化する臨界点の決定やその臨界領域における熱力学量のふるまいを連続関数として調べるために、クォーク行列式をホッピングパラメタκについてκ=0のまわりでテイラー展開した再重み付け法を用いることは有益である。本研究では系統的に高次項を数値計算していくことにより、そのホッピングパラメタ展開の収束性や、高次項の打切り誤差、展開による近似の適用限界を調べる。有限密度でのクォーク行列式の複素位相もホッピングパラメータ展開によって調べ、有限密度での臨界点の決定方法を議論 する。
- ニッタ ムネト (慶應義塾大学)
--- トポロジカル・ソリトンの量子生成, Quantum nucleation of topological solitons
The chiral soliton lattice is an array of topological solitons realized as ground states of QCD at finite density under strong magnetic fields or rapid rotation, and chiral magnets with an easy-plane anisotropy. In such cases, topological solitons have negative energy due to topological terms originating from the chiral magnetic or vortical effect and the Dzyaloshinskii-Moriya interaction, respectively. We study quantum nucleation of topological solitons in the vacuum through quantum tunneling in 2+1 and 3+1 dimensions, by using a complex ϕ4 (or the axion) model with a topological term proportional to an external field, which is a simplification of low-energy theories of the above systems. In 2+1 dimensions, a pair of a vortex and an anti-vortex is connected by a linear soliton, while in 3+1 dimensions, a vortex is string-like, a soliton is wall-like, and a disk of a soliton wall is bounded by a string loop. Since the tension of solitons can be effectively negative due to the topological term, such a composite configuration of a finite size is created by quantum tunneling and subsequently grows rapidly. We estimate the nucleation probability analytically in the thin-defect approximation and fully calculate it numerically using the relaxation (gradient flow) method. The nucleation probability is maximized when the direction of the soliton is perpendicular to the external field. We find a good agreement between the thin-defect approximation and direct numerical simulation in 2+1 dimensions if we read the vortex tension from the numerics, while we find a difference between them at short distances interpreted as a remnant energy in 3+1 dimensions.
This talk is based on a collaboration with Minoru Eto: arXiv:2207.00211 [hep-th].
- 関野 裕太 (理研CPR)
--- 冷却原子気体における交流スピン伝導率, Conductivity of alternating spin currents in ultracold atomic gases
In this presentation, we report our proposal to measure optical spin conductivity, which is response of an alternating spin current and elusive in condensed-matter systems, in ultracold atomic gases. To demonstrate what information can be captured by the frequency dependence of the spin conductivity, we then introduce our theoretical studies for several cold-atomic systems; a spin-1/2 s-wave Fermi superfluid, spin-1 Bose Einstein condensate, Tomonaga-Luttinger liquid, and topological Fermi superfluid.
- 中村 幸輝 (名大理)
--- 相対論的電磁流体を用いた高エネルギー重イオン衝突実験の解析, Analysis of the high-energy heavy-ion collision based on the relativistic resistive magneto-hydrodynamics
高エネルギー原子核衝突実験の発展により, クォークやグルーオンからなる高温・高密度物質
であるクォーク・グルーオンプラズマ(QGP)がRHICのAu-Au衝突実験において実験的に発見された. さらにQGPの時空発展を相対論的流体模型が楕円フローなどの実験結果を再現したことによりQGPは強結合物質であることが明らかとなった. 現在では, 相対論的流体模型を用いて高エネルギー原子核衝突実験を解析することで,QGPの粘性など物性的性質が盛んに議論されている.
さらに高エネルギー重イオン衝突実験では,正の電荷をもつ原子核によって作られる高強度の電磁場が存在すると考えられている.高強度の電磁場とQGPの相互作用を高エネルギー重イオン衝突反応を通して理解することはQGPのもつ電気伝導度を実験的に測定する上で重要な課題である.本発表では, 相対論的抵抗性電磁流体模型を高エネルギー原子核衝突実験におけるQGPの時間発展を記述する模型として適用することで電磁場に対するQGP の応答について議論する. 特に非対称系であるCu-Au衝突実験では衝突初期に磁場だけでなく, QGP媒質中に対称系と比べて強い電場も生成される. 電場は相対論的電磁流体において電気伝導度を考慮することによって, 初めて応答を調べることができる. さらにこれらの系におけるハドロンの集団的なフローは電気伝導度に対して感度を持つことが知られており, 電気伝導度依存性を調べる上で重要な系であると考えられる. 以上を踏まえて,相対論的抵抗性電磁流体を用いてAu-Au衝突実験及びCu-Au衝突実験におけるハドロンの集団的なフローを解析することで, 電磁場に対するQGP の応答及び電気伝導度依存性について議論を行う.
- 平口 敦基 (國立陽明交通大学)
--- モンテカルロ法を用いたSU(2)-Multi-Higgs模型の相構造の研究, Lattice simulations of SU(2) gauge theories with multiple Higgs fields
格子場理論におけるモンテカルロシミュレーションは場の理論の非摂動効果を研究する重要な計算手法である。本研究では、SU(2)ゲージ場とスカラー場が結合した模型であるSU(2)Higgs模型を考える。この模型の相構造はこれまで調べられてきたが、SU(2)Higgs模型に複数のHiggs場を追加した模型の相構造は多く調べられていない。本講演では、この模型の応用例を紹介し、モンテカルロシミュレーションを用いて得られた相構造の研究成果を報告する。
- 大山 修平 (京大基研)
--- フェルミオンの行列積状態を用いた1+1次元Thoulessポンプ不変量の構成, The Generalized Thouless Pump and Fermionic Matrix Product State
トポロジカル物性において,格子上でshort range entangled状態(SRE状態)と呼ばれる状態のクラスを調べる研究が盛んに行われてきた.特にSRE状態のS^1 familyはgeneralized Thouless pumpと呼ばれる輸送現象を与えると考えられており,この輸送現象を捉える不変量の構成などが研究されている.本発表では相互作用のある1+1次元フェルミオン系のSRE状態に注目し,injective fermionic matrix product state (injective fMPS)を用いてそれらの系におけるgeneralized Thouless pumpの存在を調べる.そのためにまずinjective fMPSの持つ冗長性を決定し,injective fMPSの幾何学的な構造を明らかにする.次にその冗長性を用いてSRE状態のS^1 familyに対する不変量を定義し,その不変量を用いていくつかの模型におけるgeneralized Thouless pumpの存在を調べる.最後に不変量の幾何学的な意味について議論する.なお本発表は塩崎氏・佐藤氏との共同研究 https://arxiv.org/abs/2206.01110 に基づいた内容である.
- 野中 千穂 (広島大)
--- Inhomogeneous phases in 1+1 dimensional chiral Gross-Neveu model on the lattice, Inhomogeneous phases in 1+1 dimensional chiral Gross-Neveu model on the lattice
Understanding of the QCD phase diagram is one of important topics in nuclear and hadron physics.
In particular, various possible phase structures are proposed from analyses of effective theories
in low temperature and high density region.
One of them is inhomogeneous chiral condensate which exhibits characteristic space structures.
Since there is no general established method for determination of the structure of the chiral condensate,
usually some solutions such as chiral spiral and kink solutions are assumed.
On the other hand, the Monte Carlo method in lattice QCD does not work in the low temperature and high density region,
because of existent of the notorious sing problem.
However, the usual lattice calculation is applicable to the 1+1 Gross-Neveu (GN) model and chiral GN model
that have similar property of QCD, since they do not have the sign problem at finite density.
Recently the interesting phase structure of the inhomogeneous chiral condensate in the 1+1 dimensional GN model on the
lattice has been presented [1].
Here we study the phase structure of the 1+1 dimensional chiral GN model, performing the lattice simulation.
Advantage of using the Monte Carlo method is that one can investigate the general space structure of the sigma
and pion condensates without any assumption of it.
We will discuss the phase diagram of the chiral GN model with finite number of flavors, comparing that of the
GN model with finite number of flavors.
Furthermore we will investigate the spatial distribution of the inhomogeneous phase in detail.
[1] J. Lenz, L. Pannullo, M. Wagner et al., Phys. Rev. D 101, no.9, 094512 (2020)
- 真辺 幸喜 (慶大理工)
--- 冷却Fermi原子気体における複合分子間相互作用:多体相互作用の視点から, Effective interaction between composite molecules in an ultracold Fermi gas: Viewpoint of multi-body interactions
物質の階層性―特に相異なる階層間の移り変わりの様子を探ること―は現代物理学の重要課題である.冷却原子気体は,原子間にはたらく引力相互作用の強さを実験的に自在に制御できることから,原子階層から分子階層へのクロスオーバーを探るのに好適な系である.特に2成分Fermi原子気体において,クロスオーバー領域における種々の物理量が実験的に測定され,また,多体強結合理論に基づく実験結果の詳細な理解に成功してきた.
こうした成功を受け,より発展的な問いとして「引力相互作用により形成される(複合)分子同士にはどのような有効相互作用がはたらくのか」が注目されている.この問題には,4体(=2原子分子×2)問題を厳密に取り扱うことで,少数系物理(希薄極限)の範囲で一定の解答が得られている.しかし,そこで用いられている手法の多くは少数系物理分野に特有のものであり,そこで得られた知見をどのように多体強結合理論へ組み込み拡張していくか,は明らかでない.こうした背景を受け,本講演では,多体理論(場の理論)の定式化の下,複合分子間有効相互作用の問題を再訪,特に多体(3体,4体,…)相互作用の視点から既知の結果を解釈できることを示す.さらに,既知の4体問題の結果を越え,現実の複合分子気体を取り扱う上で不可欠である多体媒質効果を取り込む新たな定式化についても考察する.
- 柴田 章博 (KEK)
--- クォーク閉じ込め非閉じ込め相転移と双対超伝導描像, Confinement/deconfinement phase transition in view of the dual superconductivity
双対超伝導描像はクォーク閉じ込め機構の最も有力なシナリオの一つである。これまで我々はゲージ場の共役な分解の方法を用いて,明白にゲージ不変な方法を方法によって閉じ込めに寄与する自由度をゲージ配位から抽出して閉じ込め機構の検証を行ってきた。本講演では,有限温度下における閉じ込め・非閉じ込め相転移について注目する。元のYang-Mills場及び抽出した閉じ込めに寄与する自由度(制限場)について,Polyakov ループ期待値,静的ポテンシャル,カラーフラックスチューブ,誘導されたモノポールカレントなどを閉じ込め相・非閉じ込め相で計測することで,双対超伝導描像を検証する。また閉じ込め・非閉じ込め相転移の磁気モノポールの果たす役割について議論する。時間が許せば非閉じ込め相転移の表現依存性について議論する。
- 宇都宮 聖子 (アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社)
--- NISQ時代の量子コンピュータ, Quantum Computing in NISQ Era
量子コンピュータの研究開発の潮流は激しく、デバイスからアルゴリズムの研究開発、そしてソフトウエアやアプリケーションの開発まで、さまざまなレイヤでの研究開発が盛んに行われている。そして近年では量子コンピュータの実機を、クラウド経由で誰でも利用可能な時代に突入し、量子ソフトウエア開発のためのオープンソースも普及し、多くの人が量子コンピュータを使った実験やソフト開発を行えるようになった。本講演では、量子コンピュータの計算様式(ユニバーサルゲート型・アニーリング型・ボゾンサンプリングなど)や、NISQや誤り訂正技術の基礎的な考え方を紹介し、クラウドで利用可能な量子コンピュータ技術を中心に最近の量子コンピュータの技術動向についても触れる。