TQFT 2019 Abstracts
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- 渡辺 展正 (筑波大数理物質)
--- 部分的非閉じ込め相とその応用, Partially deconfined phase and its application
本発表では、ゲージ理論における部分的非閉じ込め相について議論する。部分的非閉じ込め相とは、閉じ込め相・非閉じ込め相に加えて存在する第3の相であり、SU(N)対称性のうちSU(M)(M<N)が保存している場合にあたる。この相は考える理論によって、その安定性と転移の次数が変化する。本発表では、ゲージ理論の閉じ込め現象の一般論として部分的非閉じ込め相を紹介し、QCDなどへの近似的応用について議論する。また、ゲージ/重力対応の文脈では不安定な部分的非閉じ込め相が熱力学的に不安定なブラックホール相を記述していると予想されるため、この点も補足する。
- 伊丹 將人 (京大福井センター)
--- 断熱ピストン問題における長時間変位のキュムラント母関数, Cumulant generating function of long-term displacement for the adiabatic piston problem
長い筒を摩擦なく動ける壁で仕切り、左右に同圧異温の希薄気体を入れたときの壁の運動を考える。これは断熱ピストン問題と呼ばれており、壁はゆらぎながら高温側へ動くことが知られている。本講演では、壁と希薄気体の質量比の平方根を微小パラメータとして、壁の長時間変位のキュムラント母関数を摂動的に計算する手法を述べる。また、キュムラント母関数が一致するランジュバン方程式が無限に存在することを示す。
- 松尾 大和 (広大院理)
--- 非一様なカイラル凝縮を持つ4対フェルミ相互作用モデルのzeta関数正則化による解析, inhomogeneous state by zeta function regularization in 4-fermi interaction model
カイラル対称性の自発的破れに対する有効模型として4対フェルミ相互作用モデルが研究されている。本研究では非一様なカイラル凝縮の仮定のもと、zeta関数正則化の方法により相構造を調べた。特に、すでに調べられているキンク解について3次元、4次元への拡張や空間がコンパクト化された場合について議論する。
- 森田 健 (静岡大学)
--- Hawking radiation from butterfly effect, Hawking radiation from butterfly effect
ブラックホールにおけるHawking radiationの理解を深めるために、Hawking radiationに類似した量子論的な発熱現象がどのような状況で起こるのかを理解するのは重要な問題である。本研究ではバタフライ効果が生じる際にHawking radiationと類似した現象が半古典的に起こることを紹介する。また本研究の応用として、近年盛んに研究されているカオス系におけるLyapunov指数の上限値予想の直感的説明や、超音速流体におけるHawking radiationの非摂動的な導出を紹介する。
- 下地 寛武 (広大院理)
--- 4体フェルミ相互作用模型におけるカイラル対称性に対する化学ポテンシャルの寄与, Contribution from chemical potential to chiral symmetry in four-fermion interaction model
自発的対称性の破れを記述する簡単な模型として4体フェルミ相互作用模型は様々な研究に用いられてきた。本発表では一様なカイラル凝縮の仮定のもと、化学ポテンシャルとコンパクト化された空間を伴うD次元空間(2<=D<4)上で4体フェルミ相互作用模型を解析し、得られた有限サイズ・有限温度・有限密度の系における相構造について述べる。化学ポテンシャルがある場合、コンパクト化された空間のサイズを変えると対称性が回復した相と破れた相とが交互に現れること、またその現象について議論する。
- 中野 裕義 (京大理)
--- ナノ流体におけるゆらぎの数値シミュレーション:線形化されたゆらぐ流体力学の正当性, Computer studies of fluctuation of confined fluid: validity of linearized fluctuating hydrodynamics
近年、流体力学をナノ・マイクロスケールに閉じ込められた流体の輸送現象へと応用しようとする試みが注目を集めている。例えば、ナノチューブ中の流体の輸送現象は2000年以降実験的によく調べられてきた。このような小さなスケールの流体系では分子のカオス的な運動に由来するゆらぎの振る舞いが無視できないと考えられるが、そのゆらぎがどのような時間発展方程式によって記述できるかは明らかとなっていない。そこで、発表者はマクロなスケールの熱ゆらぎを精度良く記述することで知られているゆらぐ流体力学が数nmスケールの非常に小さな系に適用できるかを固体壁に働く力のゆらぎに着目して調査した。その結果、分子的に滑らかな表面ではミクロな時間スケールのゆらぎが線形化されたゆらぐ流体力学によって高精度で記述できることを明らかとした。本発表ではこの詳細を説明する。
- 秋山 進一郎 (筑波大院数理)
--- 高次テンソル繰り込み群による4次元Ising模型の相転移の解析, Phase transition of four-dimensional Ising model with higher-order tensor renormalization group
平均場理論ではIsing模型の相転移は2次であることが結論され、摂動繰り込み群を用いると4次元では平均場の臨界指数に対数補正が伴うことが導かれる。一方、モンテカルロ計算では非摂動的な解析が可能となるものの、強い有限体積効果に起因して信頼できる熱力学極限への外挿が困難であり、摂動繰り込み群の結果の再現には今日に至るまで成功していない。本研究では、テンソルネットワーク法の一種である高次テンソル繰り込み群を4次元系へと拡張し、最大1024^4サイトの超立方格子上でIsing模型の内部エネルギーと磁化の振る舞いを調べることによって、その相転移現象について議論する。
- 筒井 翔一朗 (理研仁科センター)
--- 複素ランジュバン法によるGaudin-Yang模型の解析, Complex Langevin method for the Gaudin-Yang model
質量や化学ポテンシャルにインバランスがある2成分フェルミ粒子系は、FFLO相などの興味深い相の出現が予想され、理論・実験の双方から精力的に議論されている。ところが、このようなインバランスのある系の数値計算は、符号問題のために困難である。本講演では、符号問題を回避しうる有望な手法である複素ランジュバン法を、可解系であるGaudin-Yang模型に適用し、この手法の有効性を議論する。
- 坂井 あづみ (上智大理工)
--- 高エネルギー重イオン衝突反応における流体揺らぎと縦初期揺らぎの効果, Effect of hydrodynamic fluctuations and initial longitudinal fluctuations in heavy-ion collisions
高エネルギー重イオン衝突反応において生成されるクォークグルーオンプラズマ(QGP)の性質を探求するにあたり、揺らぎの効果は非常に重要である。近年、衝突軸方向のダイナミクスを探るために事象平面の相関の測定と解析が多くなされている。本研究では、事象平面の相関に関わる揺らぎとして、流体揺らぎと初期の縦方向の揺らぎに注目し、数値シミュレーションをおこなう。その結果、事象平面の衝突軸方向の相関に与える流体揺らぎと縦初期揺らぎの効果を示す。
- 江尻 信司 (新潟大理)
--- 有限密度格子ゲージ理論における符号問題とセンター対称性, Sign problem and center symmetry in finite density lattice gauge theories
高温高密度でのQCDの相転移を、クォーク密度の揺らぎの仕方を表す確率分布関数に注目することにより研究する。QCD相転移は密度が変わることによって、性質が変わることが予想されており、そのクォーク密度の確率分布関数の形が相転移の性質を理解するうえで重要な情報となる。高密度でのQCDの数値シミュレーションには「符号問題」という深刻な問題があるが、本研究では、格子ゲージ理論の有限温度相転移を理解するうえで重要な「センター対称性」を考えることにより、その符号問題を回避する方法を提案する。
- 中村 幸輝 (名古屋大学理学研究科)
--- 小さい衝突系における高温クォーク物質の性質, Study on QGP bulk property in small system
クォークやグルーオンは強い相互作用によって通常、陽子や中性子のようなハドロン内部に閉じ込められている。しかし、高温相では強い相互作用の漸近的自由性によりクォークやグルーオンは閉じ込めから解放されクォーク・グルーオンプラズマ(QGP)と呼ばれる状態を形成する。
2005年に米国ブルックヘブン国立研究所の高エネルギー重イオン加速器で行われた金-金衝突実験でQGPの生成が確認された。この実験結果を相対論的流体模型が再現することによりQGPが強結合物質であることを示した。しかし、系の熱平衡化や流体化のメカニズムについては明確な理解が得られていない。
現在では、QGPの物性研究や重イオン衝突実験の時空発展に関する理解を進めるため様々な衝突系における研究が盛んに行われている。その中に陽子-原子核衝突のような比較的粒子数の小さい衝突系というものが存在する。この小さい衝突系においてもQGP生成を示唆する実験結果が多数報告されている[1]。小さい衝突系を詳細に調べることは重イオン衝突における系の熱化や流体化の振る舞いを理解する上で重要であると考えられる。
本発表では、LHC の陽子-鉛衝突実験(√s=5.02 TeV)及び鉛-鉛衝突実験(√s=2.76 TeV)に相対論的流体模型[2]を適用することで流体的性質を明らかにする。さらに大きい衝突系と粒子分布や楕円フロー等の観測量を比較することで系の熱化を議論する。
[1] J. Adam et al. [ALICE Collaboration], Nature Phys. 13 (2017) 535.
[2] K. Okamoto and C. Nonaka, Eur. Phys. J. C 77, no. 6, 383 (2017).
- 佐々 真一 (京大 理)
--- エントロピー最大原理の非平衡への拡張 - ミクロ力学からの構成と実験への予言 -, Non-equilibrium extension of the maximum entropy principle - microscopic dynamics and macroscopic experiments -
非平衡系における変分原理をめぐる歴史をふりかえり、シャープな実験結果を予言し、ミクロな力学と結びつくことの重要性を指摘する。それらの条件を満たす新しい変分原理を紹介する。
- 曽我部 紀之 (慶大(理工))
--- 非相対論的な光子に起因したQCDの新しい動的臨界現象, New dynamic critical phenomena of nonrelativistic photons in QCD
背景磁場中のQCDのカイラル二次相転移の臨界現象に及ぼす動的な電磁場の効果について議論する。特に、量子アノマリーに起因して非相対論的な分散関係を持つ光子が現れることで、従来の動的臨界現象の分類に当てはまらない新たなユニバーサリティクラスに属することを示す。また、3次元ディラック半金属での実現可能性について議論する。
- 藤井 啓祐 (阪大基礎工)
--- 量子情報と基礎物理, Quantum Information and physics
量子コンピュータは,現代物理学の基礎をなす量子力学の原理に従って(最大限に活用して)動作するコンピュータである.量子コンピュータをノイズから保護するために作り出された量子誤り訂正理論は,現在では物性・統計・素粒子を含む物理学分野に広く応用されてきている.本公演では,量子誤り訂正について解説し,物理との接点について紹介する.
- 折戸 隆寛 (名工大院)
--- スピン系トポロジカル相の傾斜磁場による多体局在相転移, Many-body localization phase transition by the gradient magnetic field of topological phase in spin system
一様磁場がもたらす量子多体系における局在現象が報告された。
本研究では、この新奇な局在へのメカニズムに着目し、スピン系トポロジカル相に対する影響を検討する。
- 西村 健太郎 (慶大理工)
--- 回転するバリオン物質におけるη'中間子のカイラルソリトン格子状態, Chiral soliton lattice state of the η' meson in dense baryonic matter under rotation
回転するバリオン物質では、η’中間子に対して回転に特有のトポロジカル項が現れることを示す。さらに、このトポロジカル項によって、十分速く回転するバリオン物質の基底状態がη’中間子のカイラルソリトン格子(CSL)状態になることを示す。この状態は、パリティ対称性が自発的に破れた、トポロジカルソリトンが周期的に並ぶ状態である。特にフレーバー対称性を持つ高密度バリオン物質において、η’中間子のCSL状態は、カラーフレーバーロッキングと呼ばれるカラー超伝導相よりもエネルギー的に安定であり、その臨界角速度はQCDアノマリーの強さに比例することを示す。
- 金谷 和至 (筑波大宇宙史センター)
--- QGP at the physical point with the gradient flow, QGP at the physical point with the gradient flow
We apply a general method to compute any renormalized observables on the lattice based on the gradient flow to sudy thermal properties of QGP. Performing a series of physical point simulations of 2+1 flavor lattice QCD using a nonperturbatively O(a)-improved Wilson quark action and the renormalization group-improved Iwasaki gauge action, we compute renormalized observables including the energy momentum tensor and chiral susceptibility and discuss the temperature dependence of them.
- 安井 繁宏 (慶應自然セ)
--- ギンツブルグ-ランダウ方程式で探る高密度中性子3P2波超流動の諸相〜表面トポロジー・臨界点・ドメインウォール〜, Aspects of neutron 3P2 superfluidity at high density by Ginzburg-Landau equation -surface topology, critical endpoint, domain walls-
中性子星内部に存在する可能性のある中性子3P2波超流動はスピンと運動量の組み合わせによる多様な内部自由度をもっている。このために通常のS波超流動では見られない現象が発現することが知られている。今回の発表では、ギンツブルグ-ランダウ方程式に基づいて、中性子物質表面におけるトポロジカル欠陥, 臨界点近傍の振る舞い, ドメインウォールの性質について議論する。
- 横田 猛 (KEK)
--- 汎関数くりこみ群に基づいた密度汎関数理論による二次元一様電子系の解析, Analysis of the two-dimensional homogeneous electron gas with the functional-renormalization-group aided density functional theory
密度汎関数理論は物性系や原子核系を含む幅広い分野で使われる手法だが、近年汎関数くりこみ群に基づいて密度汎関数理論を改善する試みが進んでいる。我々は、この汎関数くりこみ群に基づいた密度汎関数理論(FRG-DFT)を2次元一様電子ガスに応用した。特に相関エネルギーの密度依存性を計算し、高密度側で厳密な値、およびモンテ・カルロの結果とほとんど一致する結果を得た。これはFRG-DFTによる2次元以上の系への初めての応用であり、FRG-DFTの現実的な物質への応用の可能性を期待させるものである。本講演ではこれらの成果に加え、最近取り組んでいる任意のスピン偏極がある場合にへの拡張、及びそれによる電子系の磁気的性質の解析について報告する。
- 古澤 拓也 (東工大院理)
--- Boson-Fermion Duality in Four Dimensions, Boson-Fermion Duality in Four Dimensions
Boson-Fermion Duality in Four Dimensions
In my poster, we propose a novel boson-fermion duality in four space-time dimensions by generalizing lattice construction approach, which is applied to derive 3D boson-fermion duality [1]. Our analysis suggests that the Abelian Higgs model of $\Theta=\pi$ is equivalent to a free Dirac fermion. The phase transition between topological and trivial insulators on the fermion side is dual to that between Higgs and confined phases on the boson side. Moreover, the Dirac fermion corresponds to a three-body bound state of one Higgs boson and two dyons in the bosonic theory.
[1] Jing-Yuan Chen, Jun Ho Son, Chao Wang, and S. Raghu, Phys. Rev. Lett. 120, 016602 (2018)
[2] Takuya Furusawa and Yusuke Nishida, Phys. Rev. D 99, 101701(R) (2019)
- 今井 良輔 (早大基幹理工)
--- 駆動散逸のある電子正孔系におけるBCS型状態, BCS-type state in driven-dissipative electron-hole systems
光を半導体に入射すると電子正孔対が生成される一方、電子正孔対は有限の寿命で消滅する。そのため、定常的な光の下では生成と消滅が釣り合った非平衡定常状態が実現される。電子正孔対はクーロン引力による束縛状態として励起子を作るため、多数の励起子が存在する状況を素朴に考えると超伝導のBCS理論と同様な励起子凝縮の実現が期待される。我々は、駆動散逸下の電子正孔系をKeldysh形式経路積分で取扱い、半古典近似等に基づいて調べた。本発表ではその結果について報告し、非平衡励起子凝縮の性質を議論する。
- 橘 保貴 (Wayne State University)
--- クォーク・グルーオン・プラズマとジェットの相互作用とその媒質応答, Interaction with jet and its medium response in quark-gluon plasma
We present an overview on recent studies of medium response to jet quenching in high-energy heavy-ion collisions.
In high-energy heavy-ion collisions, the deconfined state of quarks and gluons, namely quark-gluon plasma (QGP), has been created. One of the remarkable properties of the QGP is its collective motion which has been well described by relativistic hydrodynamics. On the other hand, very energetic quarks and gluons (collectively known as partons), so-called jets, are produced in high energy collision experiments. Jets have shower structure formed via successive partonic splittings until the hadronization and are observed as collimated clusters of hadrons. In high-energy heavy-ion collisions, the energetic showering partons in jets are supposed to propagate through the QGP medium and their structures are modified via the strong interaction with the medium constituents (this phenomenon is commonly referred to as jet quenching in a broad sense). The modifications of jet spectra and jet inner structure have actually been observed in experimental measurements and provided the information of the interactions between jets and QGP medium.
Some energy and momentum are diffused into the medium via the interactions, and propagate as collective flow excited in the medium. The jet-induced flow can enhance the hadron emission from the medium around the jet axis direction. Since these enhanced hadrons are correlated with jet, they should always be reconstructed as part of jets together with the fragments from energetic showering partons. In this talk, we discuss the modification of the jet structures focusing on the effect of the medium response effect.
- 岩崎 愛一 (二松学舎大)
--- QCDモノポールによるカイラルSU(2)対称性の破れ, chiral SU(2) symmetry breaking induced by QCD monopole
モノポールとクォークの相互作用の詳細な解析から、それはカイラルSU(2)対称性を破ることが分かる。この研究は、ルバコフ効果におけるフェルミオンとGUTモノポールの散乱結果を、QCDモノポールに応用することで得られる。カイラル極限で、モノポールとクォークの相互作用は、クォークの質量項に相当する項を生み出す。すなわち、モノポール凝縮でクォークの質量は生成される。この結果は、閉じ込めとカイラル凝縮がほぼ同時に実現するという格子ゲージ理論の結果と一致する。なお、生成される質量は数MeVほどである。
- 大塚 高弘 (阪大理)
--- フェルミオン・光子間の相互作用を通じたカイラリティ変化の寄与を含むカイラル運動論の構築, Construction of chiral kinetic theory including chirality flipping through the interaction between fermion and photon
カイラルアノマリーに起因する輸送現象はカイラル輸送現象と呼ばれており、クォーク・グルーオン・プラズマなどの様々な系で発生していると考えられている。カイラル輸送現象のダイナミクスを精密に理解する上で、カイラリティに影響を与える要因を正確に考慮することは重要である。従来の研究では古典電磁場中のカイラル輸送現象を考えることが主流であったが、本研究ではフェルミオンと電磁場の量子である光子の散乱によるカイラリティ変化に着目して、それがカイラル輸送現象に与える影響を議論する。そのため、解析する上での基礎方程式となる、カイラリティの変化を起こす相互作用の寄与を取り込んだ各カイラリティごとのフェルミオンの輸送方程式を構築する。
- 壽崎 悠貴 (佐賀大学大学院 工学系研究科)
--- 高密度クォーク物質におけるアンドレーエフ反射, Andreev reflection in high density quark matter
有限温度・有限化学ポテンシャルでのクォーク多体系の性質の解明は、初期宇宙における相転移や高エネルギー重イオン衝突実験、高密度天体の諸現象に関わる重要なテーマである。本研究は中性子星のような高密度天体を念頭に置く。中性子星内部には多様な相が存在すると考えられ、相境界の物理は重要である。ここでは凝縮系物理でよく知られたアンドレーエフ反射という相境界での現象をクォーク物質の場合に考察する。最終目標は核物質相とクォーク超伝導相の境界で生じる現象の理解である。本発表ではその進捗状況を報告する。
- 石川 智之 (慶應義塾大学大学院理工学研究科)
--- 相対論的な超流動流体方程式のBjorken膨張解, Bjorken flow in relativistic superfluid hydrodynamics
QCD物質の低温・高密度状態は、クォークの超流動状態になることが理論的に予想されている。本講演では、有限温度・有限密度QCDにおけるクォーク超流体の時間発展を記述する相対論的な流体方程式を系の対称性に基づいて構築し、そのBjorken膨張解について議論する。
- 橋爪 洋一郎 (東理大理)
--- フラストレート系の時間発展における熱場ダイナミクスと距離, Thermo-field dynamics on a frustrated system and its geometrical analysis
我々はこれまでに,熱場ダイナミクス(Thermo-field dynamics; TFD)で用いられる状態ベクトル,すなわちTFD状態ベクトル,の変化を追跡し,その変化量を基準として幾何学的に状態変化が記述できることを明らかにしてきた.この記述はKLダイバージェンスの変化と比例することがわかってきている.ところで,フラストレーションを含むスピン系では,基底状態が高度に縮退するため,そのエントロピーの振る舞いが非フラストレート系とは大きく異なる.そこで,本研究ではフラストレーションを含むランダムスピン系のダイナミクスを,熱場ダイナミクスとそれに基づく幾何学的記述によって追跡する.
- 柳原 良亮 (阪大理)
--- 静的クォーク系の応力テンソル分布に対する熱遮蔽効果の研究, Thermal screening effect on stress tensor distribution around static quarks
我々はこれまでに、真空においてクォーク・反クォーク系の持つ力学的構造を、勾配流法を用いたSU(3)ゲージ理論の格子数値解析により研究してきた。さらに、この手法を有限温度系におけるシミュレーションに拡張し、クォーク1体系およびクォーク・反クォーク系における応力分布の解析を初めて行った。これらの解析で得られた応力分布を用いて、臨界温度周辺における閉じ込め相互作用の消失や有限温度でのカラー遮蔽効果について議論する。
- 松本 信行 (京大理)
--- 確率過程における配位間の距離とモンテカルロアルゴリズムの幾何学的最適化, Distance between configurations in stochastic processes and the geometric optimization of Monte Carlo algorithms
マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いた数値シミュレーションでは、確率過程を用いて分布を平衡分布へ緩和させる。本講演ではまず、これらの確率過程における「配位間の遷移の難しさ」を定量化した「配位間の距離」を定義し、配位空間に幾何を導入する。これはランダムネスから幾何が発現する新しいメカニズムにもなっている。本講演ではさらに、真空が何重にも縮退した非常にマルチモーダルな系にシミュレーテッドテンパリングを適用した場合を調べ、拡大された配位空間の幾何が漸近的反ド・ジッター空間になっていること、および、この幾何の情報をもとにテンパリングパラメーターを容易に最適化できることを示す。本内容は福間将文氏、梅田直弥氏との共著論文[1,2]に基づく。
[1] Fukuma, NM, Umeda, JHEP 1712, 001 (2017) [arXiv: 1705.06097]
[2] Fukuma, NM, Umeda, JHEP 1811, 060 (2018) [arXiv: 1806.10915]
- 福間 将文 (京大理)
--- モンテカルロ計算における符号問題とtempered Lefschetz thimble法, Sign problem in Monte Carlo simulations and the tempered Lefschetz thimble method
複素作用を持つ巨視的な系で物理量の期待値を数値的に評価する際、激しい振動積分をモンテカルロ法で評価することから、正確な評価のためには自由度の指数関数という膨大な計算時間が必要となる。本講演では、この「符号問題」の解決法としてこれまで提案されてきたいくつかの手法を紹介するとともに、最近我々が提唱した「tempered Lefschetz thimble法」とその適用例について解説する。
- 猪谷 太輔 (慶應自然セ)
--- スピンインバランスを有するフェルミ原子超流動における渦芯周りに生じるFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov状態, Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov state near a vortex core in spin imbalanced superfluid Fermi gas
近年、スピンインバランスを有する超流動フェルミ原子気体においてFFLO状態の実現可能性が理論的に議論されている。本発表ではBogoliubov-de Gannes方程式を解析することにより、スピンインバランスを有する超流動フェルミ原子気体中の渦芯周りにおいて、超流動秩序パラメータが渦芯を中心とした動径方向に振動することを理論的に示す。さらに、相互作用-スピン分極率に対する相図においてこの振動が現れる領域を決定し、実現、及び観測可能性について議論する。
- 石垣 秀太 (中大理工)
--- 荷電粒子多体系における電気伝導と束縛状態の解析, Analysis of bound states in holographic conductors
ゲージ・重力対応は超弦理論から導かれるゲージ理論と重力理論の間に成り立つある種の対応関係である。この対応関係における自然な拡張として、重力理論側をブラックホール時空にすると、ゲージ理論側には有限温度の場の理論が対応すると考えられている。ゲージ・重力対応を用いた荷電粒子多体系の電気伝導度の解析では、負性微分電気伝導(NDC)といった非線形電気伝導が現れる。NDCは強相関電子系で広く見られる現象だが、その発現メカニズムは完全には理解されていない。本研究では系に存在する中性束縛状態の寿命の定常電場に対する振る舞いを解析することにより、NDCの発現メカニズムを探った。解析結果から、NDC領域では定常電場の増大に対して束縛状態が長寿命となり、こうした束縛状態の振る舞いがNDCの発現に強く関わっていることが示唆された。講演では解析結果とその解釈について報告する。
- 溝口 卓哉 (鳥羽高専)
--- Three-stochastic distributions によるLHC領域での多重度分布とBose-Einstein相関データの統一した解析, Unified description of multiplicity distributions and Bose-Einstein correlations at LHC energies by means of three-stochastic distributions
Zborovskyは、LHC領域でのKNOスケーリングの破れを示す多重度分布を説明するために3成分の負二項分布(T-NBD)を提唱した。彼の提唱したT-NBDの枠組みによる記述が正しければ、同じエネルギー領域でのボーズ-アインシュタイン相関(BEC)のデータ解析にも、T-NBDに対応する理論式が必要である。しかし現在までATLAS、CMS、LHCbの各実験グループは単純な1成分(干渉度)1放出源モデル式で解析している。私達は、T-NBDの枠組みに基づいて、BECを解析する統一した理論形式(BEC(T-N))を提唱し、具体的に解析した。他方、LHC領域でのBECデータを解析するために、今まで使われていた1成分の慣習式(CFI)に代わって、2成分(干渉度)2放出源モデルの式(CFII)を提唱して、具体的に解析している。2つの解析式、BEC(T-N)とCFIIでLHCエネルギー領域のBECのデータを解析した。最小2乗法で解析・推定された諸結果の一致は良いと判断できる。T-NBDの3成分は、散乱過程を分類する、σ_ND、σ_SD、及びσ_DDに対応していると考えられる(arXiv:1907.01967)。現在、3成分のGeneralized Glauber-Lach (GGL)の枠組みに基づく解析も進行中である。
- 手塚 真樹 (京大理)
--- 多体量子系の時間相関からの量子カオスの特徴づけ, Characterization of quantum chaos from time correlation in many-body quantum systems
量子系におけるカオスを特徴づける量としては、従来、エネルギー固有値の準位統計や、非時間順序相関関数から得られるLyapunov指数が調べられてきた。
発表者らは近年、古典系の有限時間Lyapunovスペクトル[1]や、これを量子系に拡張したもの[2]について、準位統計のランダム行列的な振る舞いがカオス性と対応して見られることを見出した。
量子Lyapunovスペクトルは非時間順序相関の項を含む行列の特異値から定義されるが、本発表では、通常の(時間順序)相関関数の行列の特異値の準位統計を見ても、カオス性の有無に対応した振る舞いが見られることを示す。[3]
具体的には、系の大きい極限で解けてLyapunov指数が「カオスの上限」を満たすなどの著しい性質をもつ Sachdev-Ye-Kitaev 模型およびカオス性を壊す項を加えた模型[4]、
さらに、多体局在の典型的な模型としてよく調べられている、ランダム磁場を加えた量子スピン鎖を例として報告する。
[1] M. Hanada, H. Shimada, and M. Tezuka, Phys. Rev. E 97, 022224 (2018) (arXiv:1702.06935)
[2] H. Gharibyan, M. Hanada, B. Swingle, and M. Tezuka, JHEP04(2019)082 (2019) (arXiv:1809.01671)
[3] H. Gharibyan, M. Hanada, B. Swingle, and M. Tezuka, arXiv:1902.11086
[4] A. M. Garcia-Garcia, B. Loureiro, A. Romero-Bermudez, and M. Tezuka, Phys. Rev. Lett. 120, 241603 (2018) (arXiv:1707.02197)
- 森下 天平 (山梨大院工)
--- Hypo-equilibrium state近似を用いた量子熱力学による量子ナノ系の散逸緩和理論, Quantum Relaxation Theory by Quantum Thermodynamics using Hypo-equilibrium state Approximation
量子情報デバイスの素子を記述する基本モデルである二準位系のコヒーレントダイナミクスやその散逸緩和過程を解明することは,量子情報デバイス開発において非常に重要である.本研究では,無限自由度を持つ環境系と結合する量子系の不可逆な散逸緩和過程をSteepest-Entropy-Ascent Quantum Thermodynamics(SEAQT)と呼ばれる内因性量子熱力学理論により記述し議論する.その際,厳密計算を要するSEAQTでは無限系を扱うことができないため、Hypo-equilibrium state近似という理論手法を導入する.
- 藤井 啓資 (東工大院理)
--- 開放系における空間並進対称性の自発的破れとドメインウォールの有効理論, Spatial translational symmetry breaking and effective theory of domain wall in nonequilibrium open system
近年,対称性の自発的破れと南部-Goldstone(NG)モードの概念が非平衡開放系へ適用
できることが明らかにされた.より具体的には,非平衡開放系において実現する定常
状態において系の持つ対称性が自発的に破れた時,その定常状態周りの揺らぎにギャ
ップレスのNGモードが現れる.本研究では,非平衡開放系において空間並進対称性が
自発的に破れた場合,特に1方向の並進対称性が破れ,定常解としてドメインウォー
ルが生じた場合を考え,Schwinger-Keldysh形式の場の理論に基づいて書き下した低
エネルギー有効理論を用いて解析を行った.
- 谷口 裕介 (筑波大学計算科学研究センター)
--- QGP粘性係数導出に向けたNf=2+1 QCDエネルギー運動量テンソル相関関数の研究 (II), Study of EM tensor correlation function in Nf=2+1 full QCD for QGP viscosities (II)
格子QCDを用いてクォーク・グルーオン・プラズマの粘性係数の導出に挑戦する。
粘性係数はエネルギー運動量テンソルの相関関数から線形応答関係式を使って導出されるが、格子上では(1)エネルギー運動量テンソルを保存カレントとしては定義できず非自明な繰り込みが必要となる、(2)線形応答関係式から導出される久保の応答関数を直接計算することができない、という二つの困難があり、
これまでの研究はクォークを含まないquench近似に限られていた。
本研究では格子上でエネルギー運動量テンソルを定義するために必要な非摂動論的な繰り込み定数の計算にgradient flowを用いる。
その利点を活かすことで、Nf=2+1 クォークを含むfull QCDを対象として、粘性係数の計算を試みる。
昨年度からの進展として、繰り込み係数に改良を加えることで、より広い温度領域に対して、より精度の高い解析が行えることを期待している。
- 青井 隼斗 (東理大理)
--- 平行な電磁場の下でのカイラリティ非対称性とSchwinger 機構, Chirality imbalance and Schwinger mechanism in the parallel electromagnetic field
重イオン衝突実験やディラック/ワイル半金属において、カイラリティ非対称性(chirality imbalance)と呼ばれる量が注目されている。カイラリティ非対称性は、軸性異常によって電場と磁場の内積に比例して動的に誘起され、カイラル磁気効果といった特異な輸送現象の源になると考えられており、近年活発に研究がなされている。
本研究においては、定常な一様磁場とそれに平行で時間変化する一様電場の下での質量のあるフェルミオンの真空を仮定し、カイラリティ非対称性と電流の真空期待値の時間発展の解析を行った。
また、電場による粒子対生成(Schwinger 機構)とカイラリティ非対称性の間の関係にも注目した。
その際、平行な電磁場の下におけるディラック方程式の解を用いて、物理量の真空期待値を計算し、ゲージ不変な正則化を行った。
結果として、無限過去・無限未来において漸近的にゼロになる電場の下において、カイラリティ非対称性と電流が電場によって対生成した粒子の運動量分布で特徴付けられる解析的な表式を得た。
また、無限未来におけるカイラリティ非対称性と電流の値は電場の中間的な時間変化の仕方に強く依存していることがわかった。
- 平口 敦基 (高知大理工)
--- ビアンキ恒等式の破れによるクォーク閉じ込めとモノポールドミナンス, The new confinement scheme due to violation of non-Abelian Bianchi identity and Monopole Dominance
クォークの閉じ込め機構は未だに解明されていない難問のひとつである。閉じ込め機構のアイディアのひとつとして双対マイスナー効果が存在する。第二種超伝導体において磁束がチューブ状に絞られ、その周りを渦電流が回るが、これの類似としてクォーク間のカラー電束が絞られ、その周りをQCDモノポールが回ると考えるのである。つまり、QCD真空を双対超伝導体と考えることで閉じ込めを説明するのである。最近、QCDの非可換ビアンキ恒等式が破れているとすると、それが可換な保存則を満たすモノポールと解釈することができることが示された。本研究では、SU(3)ゲージ理論においてこのモノポールの寄与が閉じ込めポテンシャルを与えるというモノポールドミナンスを示し、双対マイスナー効果を確かめる。
- 森 勇登 (京大院理)
--- 経路最適化法を用いた低次元QCDにおける符号問題の研究, Study of sign problem in low dimensional QCD using path optimization
有限密度QCD等において現れる符号問題を回避するために、我々は経路最適化法と呼んでいる手法を開発している。
この方法はLefschetz thimbleのような勾配流によって積分経路を与える方法ではなく、積分経路をパラメータを持った関数で与え、そのパラメータを変分する方法である。
特に最小化すべき関数として符号問題の程度を表す平均位相因子を用いることで、符号問題を最適化問題に帰着させることができる。
本発表ではゲージ理論、特に0+1次元QCD及び1+1次元QCDへの適用例について紹介する予定である。
- 関野 裕太 (理研仁科センター)
--- 共鳴相互作用する1次元量子系の普遍性, Universal properties of resonantly interacting systems in one dimension
We derive a series of exact relations for correlation functions in both 1D bosons and fermions near two-body resonances. These relations called universal relations originate from the universal properties of the resonant systems: Their properties depend on the interactions only through the scattering lengths characterizing the low-energy scattering. The universal relations are strong constraints on the systems because the relations hold for any particle number, scattering length, temperature, and with or without a trapping potential. The relations include the asymptotic behaviors of correlation functions in high-energy regime as well as the energy relations, in which the energies are expressed in term of the momentum distributions. The universal relations involve two- and three-body contacts, which are the integrals of local pair and triad correlations, respectively.
- 森本 雅智 (高知大理工)
--- 擬ベクトル型相互作用を追加したNJL模型による高密度クォーク物質のスピン偏極の解析, Analysis of the spin polarization in high density quark matter.
量子色力学(QCD) の課題として、温度-化学ポテンシャル平面の相図の解明が挙げられる。高密度クォーク物質はコンパクト星の内部などに存在する可能性が考えられている。コンパクト星には非常に強い磁場を有しているものもあるが、この磁場の起源は未だ解明されていない。高密度クォーク物質中でスピン偏極が生じ、自発磁化が誘起されれば、コンパクト星の磁場の起源となり得る。高密度クォーク物質のスピン偏極の性質を調べることができれば、コンパクト星の有する強い磁場を説明できる可能性があると言えよう。
上記の考えに基づき、本研究はQCD相図の低温高密度領域の相構造、および高密度クォーク物質のスピン偏極の性質を明らかにすることを目的としている。
有限密度領域を解析するための有効模型として、3-flavorの南部-Jona-Lasinio (NJL) 模型に擬ベクトル型相互作用を付加した模型を採用し、有限密度領域でスピン偏極相が出現することを示す。
- 本郷 優 (慶應大自然セ)
--- 有効場の理論に基づいたDzyaloshinsky-Moriya相互作用を含むスピン系の解析, Effective field theoretical analysis of spin systems with Dzyaloshinsky-Moriya interaction
スピン間の外積に比例するDzyaloshinsky-Moriya(DM)相互作用を含むスピン系は,非一様なスピン秩序状態を実現しうるという特徴を持ち,実験・理論双方から研究が盛んに行われている.本講演では,DM相互作用が背景SO(3)ゲージ場として導入できることを示した後に,連続極限を取った有効場の理論に基づいてその効果を調べた研究について発表する.具体的には非線形シグマ模型(≒南部・ゴールドストーンモード)に基づいた記述を活用することで,空間1次元のDM相互作用を含むスピン系でヘリカル状態の上に現れる様々なインスタントン解(domain wall/bion, fractional instanton, BPS instanton)の構成できること,ならびにその低エネルギーダイナミクスの特徴について紹介する.
- 白銀 瑞樹 (新潟大自然)
--- 高次補正項を取り入れたグラディエントフロウによる一次相転移点近傍の熱力学量, Thermodynamic quantity using gradient flow with NNLO near the first transition point
グラディエントフロウを用いた計算に2ループ補正項を取り入れ、相転移点近傍の熱力学量を計算した。
- 松本 匡貴 (中大理工)
--- ゲージ・重力対応による非平衡相転移と対称性の自発的破れ, Non-equilibrium phase transitions and spontaneously symmetry breaking in holography
ゲージ・重力対応において、プローブブレーンを用いたモデルにより荷電粒子が伝導する非平衡定常状態を実現することができる。この系では電場に対して電流密度が非線形に振る舞い、この非線形性に関連した非平衡相転移が存在することが示唆されている。本講演では特に、自発的対称性の破れが伴う非平衡相転移が存在しうることを報告する。また、この非平衡相転移の特異な臨界現象についても議論する。
- 加藤 雅貴 (東理大理)
--- “Machine Learning” of Equation of State constructed by Gravitational Waves from Neutron Star Mergers, “Machine Learning” of Equation of State constructed by Gravitational Waves from Neutron Star Mergers
GW170817の観測により1.4倍の太陽質量を持つ中性子星の半径が制限されたことやPSRJ040+6620の観測により従来の中性子星の最大質量を2.17倍の太陽質量に更新したことから,現在EOSは低密度側ではやわらかく、高密度側ではかたくなければいけないと考えられている.しかし,依然,EOSを正確に特定するには至っていない.
近年,理論的なEOSのモデルと観測結果の整合性を合わせる従来の研究手法だけでなく,機械学習により実験的な観測データのみからEOSを逆算し,予測することが可能になった.先行研究では,中性子星の質量と半径の観測データから機械学習により,EOSを予測する手法が提案された.しかし,中性子星の半径を観測により正確に定めることが難しく,現状以上に予測精度を向上させることは難しい.そこで本研究では半径・質量の代わりに,重力波から得られるチャープ質量・連星潮汐変形率を用いた予測を試みた.チャープ質量とは,連星中性子星の総質量の下限を与える物理量である.連星潮汐変形率とは,星の変形しにくさを表す物理量である.
その結果,標準原子核密度のおよそ3.5倍までにおいて,チャープ質量・連星潮汐変形率を用いた場合でも,半径・質量と同等程度の予測精度を得ることができた.さらに,チャープ質量・連星潮汐変形率と半径・質量のデータを組み合わせた結果,先行研究よりも大きく予測精度が向上した.
- 門内 晶彦 (KEK)
--- ランダウおよびエッカルト系における重イオン衝突の流体解析, Hydrodynamic analyses of heavy-ion collisions in Landau and Eckart frames
高エネルギー重イオン衝突分野では近年、ビームエネルギー走査(BES)実験においてQCD相図における有限バリオン密度領域の探索が行われており、その流体モデルによる解析が進められている。一方で相対論的な流体力学には長年、有限密度散逸系において流速をエネルギー流にとるか(ランダウ系)、保存荷電流にとるか(エッカルト系)の局所静止系問題が存在する。本研究では、解析的かつ数値的に各フレームの妥当性とその選択による重イオン衝突解析への影響を論じる[1]。
[1] A. Monnai, arXiv:1904.11940 [nucl-th] (Phys. Rev. C, in press)
- 藤井 宏次 (東大総合文化)
--- Thimble approach to random matrix model, Thimble approach to random matrix model
カイラルランダム行列にthimble積分の方法を適用してみる。まだ、未完なので、ポスター講演を希望します。
- 服部 恒一 (京大基研)
--- QCDにおける近藤効果, The Kondo efffect in dense QCD
We discuss Kondo effect occurring in dense QCD. Based on the renormalization-group analysis, we show that effective coupling strengths between ungapped and gapped quarks in the two-flavor color superconducting (2SC) phase are renormalized by logarithmic quantum corrections, which drives the system into a strongly coupled regime. This is a characteristic behavior observed in the Kondo effect, which has been known to occur in the presence of impurity catterings via non-Abelian interactions. We propose a novel Kondo effect emerging without doped impurities, but with the gapped quasiexcitations and the residual SU(2) color subgroup intrinsic in the 2SC phase, which we call the 2SC Kondo effect.
- 馬場 惇 (筑波大数理)
--- Wilson fermionの下でのGradient flowを用いたカイラル感受率の測定, Measuring chiral susceptibility using gradient flow under Wilson fermion
有限温度QCDにおける閉じ込め-非閉じ込め相転移はカイラル相転移と関係していると考えられている。この相転移の転移温度の推定には、カイラル感受率がよく用いられている。
一方で、格子QCDで広く用いられているWilson fermionは、カイラル対称性をあらわに破ることによって導入されている。そのため、カイラル対称性に関係する物理量のくりこみにおいて、乗法くりこみだけでなく非自明な加法くりこみを行う必要があった。この問題に対して、gradient flow法を用いることでを用いてカイラル感受率のくりこみを行うことで加法くりこみの問題を回避する。
また、従来の転移温度の探索において、カイラル感受率のうちconnectedなダイアグラムからの寄与を無視してdisconnectedなダイアグラムの寄与のみで転移点の推定が行われて来た。これに対して、connectedなダイアグラムの寄与も含めたフルのカイラル感受率の測定を行う。
これまでの解析で現れていた系統誤差を減らすために、近年新たに提案された中間スケールや2-loopの係数を用いた解析を試みる。
- 星野 裕一 (早大理工学術院総研)
--- QED3の有限温度相転移, Conformal phase transition at finite temperature QED3
Including fermion loop to photon self-energy, we solve Dyson-Schwinger equation for fermion self-energy at finite temperature. In our approximation, transverse part of the photon propagator has no significant effects and static longitudinal part is dominant. This is a Coulomb gas like model in Kosterlitz-Thouless theory. We find the BKT type scaling of mass as a function of temperature.
- 松田 英史 (京大理)
--- グリーン・久保公式を用いた古典ヤンミルズ場の持つずり粘性の解析, Analysis of shear viscosity in the classical Yang Mills fields using Green Kubo relation
相対論的重イオン衝突直後の生成物質はグルーオンの高密度系であるため古典ヤンミルズ(CYM)場でよく近似できる。したがって、相対論的重イオン衝突における初期の時間発展を理解する上でCYM場の非平衡的性質の解析が重要である。本研究では、CYM場が平衡状態近傍では流体のように振る舞うという予想に基づき、CYM場が持つずり粘性をグリーン久保公式を用いて解析する。そして、エネルギー・運動量テンソルの時間相関やスペクトル関数の解析と合わせて、結合定数に依って変化する古典ヤンミルズ場の緩和の振る舞いを議論する。
- 真辺 幸喜 (慶大理工)
--- 強相関Bose-Fermi混合原子気体における量子多体効果と熱力学的安定性, Many-body phenomena and thermodynamic stability in a strongly-correlated Bose-Fermi mixture
近年,Bose-Fermi混合系において,強い相互作用に起因する対形成現象,bosonに誘起されるFermi超流動などの強相関量子現象が注目を集めている.極低温原子気体を用いることで,理論・実験の双方からこの系の物性を解明することが期待されているが,その目的に必須である,系の安定性の評価は十分に成されていない.本講演では,冷却Bose-Fermi混合気体の常流動相において,系の密度揺らぎに対する安定性に敏感な物理量である圧縮率行列を解析,この系の熱力学安定性を明らかにするとともに,Bose-Fermi原子間の強い揺らぎに起因する特徴的な量子多体現象も議論する.
- 大山 京尋 (早大基幹理工)
--- 駆動散逸のある非平衡凝縮系の場の量子論を用いた定式化, Formulation of quantum field theory for Non-equilibrium driven-dissipative Bose–Einstein condensation
励起子ポラリトンBECなどに代表される駆動散逸のある非平衡BECに対しては、主に現象論的Complex Gross-Pitaevskii(GP)方程式を用いて研究されてきた。本研究ではより厳密な議論の為、熱的状況下における場の量子論であるThermo Field Dynamics(TFD)を用いた定式化を目指す。その第一歩として今回は一様系における議論を行う。
- 只木 孝太郎 (中部大工)
--- アルゴリズム的ランダムネスによるベルの不等式対量子力学論争の精密化, A refinement of the argument of Bell's inequality vs. quantum mechanics by algorithmic randomness
The notion of probability plays a crucial role in quantum mechanics. It appears in quantum mechanics as the Born rule. In modern mathematics which describes quantum mechanics, however, probability theory means nothing other than measure theory, and therefore any operational characterization of the notion of probability is still missing in quantum mechanics. In our former work [K. Tadaki, arXiv:1804.10174], based on the toolkit of algorithmic randomness, we presented a refinement of the Born rule, called the principle of typicality, for specifying the property of results of measurements in an operational way. In this talk, we make an application of our framework to the argument of Bell's inequality versus quantum mechanics to refine it, in order to demonstrate how properly our framework works. On the one hand, we refine and reformulate the assumption of local realism to lead to Bell's inequality, in terms of our operational characterization of the notion of probability by algorithmic randomness [K. Tadaki, arXiv:1611.06201]. On the other hand, we refine and reformulate the corresponding argument of quantum mechanics to violate Bell's inequality, based on the principle of typicality.
- 川口 恭平 (東大宇宙線研)
--- 中性子星連星合体からの重力波と電磁波対応天体, Gravitational waves and Electromagnetic counterparts of neutron star binary mergers
2017年8月17日、中性子星同士からなる連星の合体からの重力波が検出され(GW170817)、同時に、幅広い波長域での電磁波対応天体が観測された。2019年の4月からはLIGOとVirgoがその感度を向上させて観測を再開しており、されに日本の地上重力波検出器もこの観測フェーズにおいて観測に参加する予定であり、今後多くの連星中性子星、もしくはブラックホール・中性子星の連星合体からの重力波と電磁波対応天体が観測されると期待されている。
本公演ではこれまでの観測と主に数値シミュレーションを用いた研究による中性子星連星合体からの重力波と電磁波対応天体の理解の現状についてレヴューし、今後どのような物理が観測を通して理解されると期待されるについて議論する。