TQFT 2015 Abstracts
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- 鈴木 増雄 (理研)
--- 量子解析による熱場ダイナミクスの定式化と変分原理,
また,これら不可逆過程の方程式を変分原理を用いて導く理論を提唱する.
- 伊藤 悦子 (KEK)
--- SU(3)ゲージ理論におけるエントロピックC関数の測定, Measurement of the entropic c-function for the SU(3) gauge theory
4次元pure SU(3)ゲージ理論における、エンタングルメント・
エントロピー(E.E.)をレプリカ法を用いることで非摂動論的に調べた。
E.E.は、系の真空における基本的な相関長を測定するのに適した量であると考えられている。
我々はゼロ温度のQCDにおけるE.E.を計算することで、
QCDの非摂動論的な真空の質量ギャップとクォークの閉じこめ・非閉じこめ転移の関係について考察を行う。
また、そこから得られるエントロピックC関数をAdS/CFT等から予測された結果と比較する。
- 末永 大輝 (名古屋大学)
--- Chiral Density Wave中におけるDbar メソンの分散関係, Dispersion Relation for Dbar mesons in the Chiral Density Wave
低温・有限密度QCDでは、Chiral Density Wave(CDW)と呼ばれる非一様カイラル凝縮相が存在すると言われている。このCDW中ではスカラーモードと中性擬スカラーモードが座標に依存する形で凝縮している。本研究は、このCDW中でのDbarメソンの分散関係を、カイラルパートナー構造の下で計算した。CDW中ではポテンシャルが周期的であるためブロッホの定理により、ブリルアンゾーンの存在や、集団励起モードの出現など、真空中の分散関係からの劇的な違いを見ることが出来る。
- 星野 裕一 (釧路高専)
--- Chern-Simons 項を持つQED3におけるvortex に因る Kosterlitz-Thouless 型転移, Kosterlitz-Thouless type transition in Topologically Massive QED3 with 4-component fermion
In Topologically Massive QED3 there is a vortex solution.As the XY model vortex may wash away the chiral condensate.By using spectral function of the propagator we find the critical value of the topological mass where anomalous dimension vanishes.Detailed calculation are done by Dyson-Schwinger equations which keep gauge invariance.
- 久野 義人 (名工大院)
--- 冷却原子系によるU(1)gauge-Higgs モデルの量子シミュレーション, Quantum Simulation of the U(1) lattice gauge-Higgs model in a cold atom system
光格子上冷却原子系を用いたU(1)gauge Higgs modelの量子シミュレーションについて紹介する。
Gross-Pitaevskii方程式を用いて、(2+1)Dモデルにおける、閉じ込め相、Higgs相のstatic charge間のconfinement fluxの実時間発展の測定を行った。
さらに、(3+1)Dモデルの光格子を用いた実験的構成方法や、そこで観測されうる状態相について議論する。
- 高橋 義朗 (京大理)
--- 冷却原子系による量子シミュレーション, quantum simulation using ultracold atoms
光格子中の冷却原子は、ハバードモデルで記述されることが知られている。このハバードモデルは、遍歴磁性や異方性超伝導などの強相関電子系を記述する凝縮系物理にとって大変重要なモデルであり、光格子中の冷却原子系は、極めて制御性の良いハバードモデルの新たな実験系として、大変注目を浴びている。
講演では、この光格子に極低温原子気体を導入した系を用いた量子多体系の量子シミュレーションの研究についてレビューするとともに、超低温の2電子系原子のイッテルビウム原子の系を用いて我々が最近行っているいくつかの研究(リープ格子、サウレスポンピング、量子気体顕微鏡、など)について紹介する。
- 石見 涼 (新潟大自然)
--- 多フレーバーアプローチによる有限密度QCDの臨界点の探索, Search for critical point in finite desity QCD with many flavor approach
QCDの有限温度相転移の次数はクォーク質量によって変化する。現実のクォーク質量は、その相転移の次数が変わる臨界質量の付近にあることが予想され、格子QCDの第一原理計算によって、その臨界質量を正確に求めることが重要な課題となっている。現実世界は非常に軽いクォーク2種類と中間的な質量のクォーク1種類、それ以外は重いという系であるが、本研究では、それを少し変更して、軽いクォーク2つと少し重いクォークが多数ある系に注目する。重いクォークが多い系では、一次相転移の現れる臨界点を容易に調べられることが分かっているからである。我々は、重いクォークの種類を減らすことで、現実のQCDに近付けるというアプローチが、QCDを理解する上で有効であると考える。
p4-improved staggered ferimion作用を用いた有限密度QCDの相構造の研究では、物理量の確率分布関数の変化をしらべ、分布関数の形が一次相転移の特徴である二相共存を表す形になることを用いて相構造の解析を行った。この方法により、化学ポテンシャルが大きくなるほど、一次相転移の領域が広くなることが分かってきた。本研究では、化学ポテンシャルの増大に伴い、一次相転移の領域が広くなるかをclover Wilson ferimion作用を用いて検証する。また、軽いクォークと重いクォークで異なる化学ポテンシャルを導入した場合、相構造がどのようになるかを調べる。さらに、Nfの依存性を調べ、多フレーバーQCDからの外挿によって、現実に近い2+1フレーバーQCDの相構造に対してどのような帰結が得られるかを議論する。
- 中藤 敬 (名工大院)
--- Honeycomb光格子を用いたHaldane-Bose Hubbard Modelの研究, Study of Haldane-Bose Hubbard Model in a Honeycomb optical lattice
近年、冷却原子系を用いた実験により、Haldane Hubbard Modelが構築された。我々はhard-coreボソン系でのHaldane Modelの理論研究の経過を報告する。このモデルはハニカム格子上spin1/2 XYモデルと対応しており、強いフラストレーションをもつ系である。実験では時間反転対称性の破れを自在に制御することができる。特に、原子系においてBose metal相と呼ばれる状態相の存在について、理論研究が盛んに行われている。これはスピンモデルにおけるgapless spin liquidに対応する。我々は経路積分モンテカルロ法を用いてグローバルな相構造を提示する。
- 稲垣 知宏 (広大情報メディア)
--- 4体フェルミ相互作用模型の正則化と有限温度密度相構造, Regularization and phase structure in four-fermion interaction model
4体フェルミ相互作用は繰り込み不可能な相互作用で、一般に物理量が正則化に依存してしまう。本発表では、結合定数等のパラメータの決定と、メソンの質量と崩壊定数の温度・密度依存性や、温度密度相構造について各正則化の傾向や特色について議論する。
- 白銀 瑞樹 (新潟大自然)
--- SU(3)ゲージ理論の一次相転移点における潜熱と圧力ギャップの測定, Measurement of latent heat and pressure gap at the first order phase transition point of SU(3) gauge theory
SU(3)ゲージ理論の有限温度相転移は、熱力学量の変化にギャップができる一次相転移であることが知られている。本研究では、その一次相転移点直上で大規模なシミュレーションを行うことにより、高温相と低温相のエネルギーのギャップである潜熱や、本来ゼロであるべき圧力のギャップを測定する。潜熱の先行研究では、粗い格子間隔でしか計算が行われていないが、本研究では、より細かい格子を複数用いて計算を実行し、連続極限への外挿を試みる。同時に、いくつか違った体積で計算を行い、体積依存性も調べる
- 岡本 和久 (名古屋大学)
--- Kelvin-Helmholtz instability in relativistic heavy ion collisions, Kelvin-Helmholtz instability in relativistic heavy ion collisions
初期ゆらぎを取り入れた相対論的流体シミュレーションは高エネルギー重イオン衝突実験におけるクォーク・グルーオンプラズマの輸送係数、初期状態を探る有力な手法であるが、衝突軸方向のゆらぎに関する議論はまだほとんど行われていない。今回、高エネルギー重イオン衝突実験における衝突軸方向のゆらぎに起因するケルビン・ヘルムホルツ不安定性の検証を行った。ビョルケン発展する系に速度場のずれとゆらぎを導入した簡単化した状況において流体シミュレーションを行い、初期条件のゆらぎにより渦が形成されることを確認した。衝突軸方向の小さなゆらぎがケルビン・ヘルムホルツ不安定性により成長し、衝突軸に垂直な方向も含めた後の流体発展に大きな影響を与え得ることを示す。
- 石川 健三 (北大理)
--- 太陽コロナ、電離層、銀河におけるニュートリノの電弱ホール遷移, Electroweak Hall transition of the neutrino: Implication to Solar corona, Ionosphere, and Galaxy
磁場中の希薄な電子による電弱ホール効果の導出とその太陽、地球、銀河における物理への
応用を行う。磁場下にある電子場の量子揺らぎは、電弱ゲージ場のチャ―ン・サイモン項を誘起
し、通常の電磁気的なホール効果や、ニュートリノと光のホール効果を発現させる。後者による、
ニュートリノの異常電磁遷移の確率は、フェルミの黄金律からの補正項として導かれ、希薄ガス
中で極めて大きな値となり、特異な現象を発現させる。 (弱い)磁場と低い電子密度が実現している
太陽コロナ、地球電離層、銀河におけるニュートリノが与える物理効果を解明する。
- 實松 勇佑 (佐賀大学工学系研究科)
--- 中性子星に捕獲された暗黒物質の熱化時間の一般化, Generalized thermalization time of dark matter captured by neutron star
近年、暗黒物質の中性子星による捕獲の問題が論じられている。ここでは、捕獲された暗黒物質が、核子との相互作用や暗黒物質の自己相互作用により熱化していくプロセスを考察し、暗黒物質の物理量(散乱断面積、質量)に制限を与えることを試みる。
- 土屋 俊二 (東北工大)
--- ヒッグス束縛状態を介する南部ゴールドストーンモードのファノ共鳴, Fano resonance through Higgs bound states in tunneling of Nambu-Goldstone modes
近年、凝縮系物理において秩序パラメタの振幅の揺らぎに伴う集団モードであるヒッグスモードが注目を集め、超伝導、超流動体や磁性体など様々な系で観測されている。本研究では、光格子中のボース超流動体を考え、特にヒッグスモード、NGモードに対するポテンシャル障壁の影響について調べた。その結果、ポテンシャル障壁の近傍には、これまで知られていなかった低エネルギーの局在したヒッグス束縛状態が存在することが明らかになった。またNGモードがポテンシャル障壁を透過する際に、ヒッグス束縛状態を介したファノ共鳴が起きることを見出した。
- 中村 真 (中央大学)
--- 定常状態熱力学のAdS/CFT対応による記述, Steady State Thermodynamics in AdS/CFT
平衡系の熱力学を非平衡定常状態に拡張した定常状態熱力学は存在するのだろうか。もし存在するとしたら、その定常状態熱力学はどのような性質も持つべきであろうか。このような問いに一つの回答を与えたのが佐々・田崎による定常状態熱力学(steady state thermodynamics, SST)である。ここでは、強結合ゲージ理論で用意した非平衡定常状態をAdS/CFT対応を通じて重力理論で記述することにより、少なくともここで調べるモデルについては、佐々・田崎で提案された定常状態熱力学の性質が全て成立していることを示す。非平衡定常状態での自由エネルギーの候補となる量が重力理論側で自然に定義されるなど、ここで得られた結果はAdS/CFT対応を用いた定常状態熱力学の記述に肯定的な示唆を与えるものである。本講演の内容は、大同大学の斉田浩見氏との共同研究に基づく。
- 花井 亮 (慶大理工)
--- 非平衡定常状態下の電子正孔凝縮相におけるBCS-BECクロスオーバーとその不安定性, BCS-BEC crossover phenomena and instability of an electron-hole Bose-condensate in non-equilibrium steady state
半導体に光を照射することで生成される電子正孔系は、粒子間の引力により対を形成、低温でボース・アインシュタイン凝縮を起こすと考えられている。この系は、対消滅により粒子が散逸し続けると同時に、継続的な対生成により粒子が供給され続ける、非平衡定常状態となっている。本発表では、BCS-Leggett理論とケルディッシュ・グリーン関数法を組み合わせることで、非平衡定常状態の凝縮体を解析、非平衡性が電子正孔対の破壊をもたらすことを明らかにする。さらにこの系の不安定性解析を行うことで、ペア間の実効的相互作用が、非平衡性による対破壊により(熱平衡系の斥力から)引力に切り替わることで凝縮体が不安定化することを示す。
- 松本 杜青 (慶大理工)
--- 強く相互作用する2次元冷却フェルミ原子気体におけるBKT転移近傍のCooper対の重心運動量分布, Momentum distribution of Cooper-pairs in a two-dimensional strongly-interacting ultracold Fermi gas near the BKT transition
近年、光格子の技術を用い、2次元冷却フェルミ原子気体の研究が盛んに行われている。特に、最近では、2次元冷却フェルミ原子気体リチウム6において、Cooper対の分子数の測定から超流動転移温度が観測され[ Ries, M. G. et al., Phys. Rev. Lett. 114, 230401 (2015)]、また、この温度領域近傍において、Cooper対の1次相関関数がべき乗則を示すことから[Murthy, P. A. et al., arXiv:1505.02123v1 (2015)]、BKT転移の振る舞いを観測したとして注目を集めている。本研究では、超流動揺らぎを考慮した強結合理論を用い、実験で観測された転移温度近傍でCooper対の重心運動量分布の解析を行う。そして、Cooper対の分子数と1次相関関数を計算し、実験結果との比較から、強結合効果の影響を解明する。
- 山本 直希 (慶大理工)
--- カイラル輸送現象, Chiral Transport Phenomena
相対論的なフェルミオンのもつカイラリティの性質によって引き起こる新奇な輸送現象と、その物性・原子核・宇宙物理への最近の応用について紹介する。
- 菊池 勇太 (京大理)
--- Derivation of Second-order Hydrodynamics for Non-relativistic Systems, Derivation of Second-order Hydrodynamics for Non-relativistic Systems
実験で生成される冷却原子気体のダイナミクスを扱うには、相対論的重イオン衝突後のハドロンコロナ生成段階と同様に、流体による記述が妥当な中心部と通常の流体による記述が妥当でなくなる希薄な周辺部を同時に扱う必要がある。このようなダイナミクスを解析する際に有用になると考えられるのがメゾスコピックダイナミクスの寄与も取り込んだ二次の流体方程式である。本研究では、くりこみ群法を用いて、平均場や外部ポテンシャルの効果を取り入れて二次の非相対論的流体方程式を導出し、その特性について議論する。すでに得られている相対論的方程式との比較も行う。得られた方程式を基礎にして、流体としての冷却原子気体の性質ついても触れる予定である。
- 高柳 匡 (京大基研)
--- エンタングルメント・エントロピーに関する最近の発展, Recent Developments on Entanglement Entropy
新しい量子的秩序パラメーターとして機能する「エンタングルメント・エントロピー」に関する最近の発展をレビューする。場の理論における計算とAdS/CFT対応を用いた解析の双方の話題に関して説明したい。
- 筒井 翔一朗 (京大)
--- Lefschetz thimbleの変形による複素Langevin法の改善, An improvement of the complex Langevin method by modification of Lefschetz thimbles
量子多体系の非摂動的な計算手法の一つとして、近年、複素Langevin(CL)法が注目されている。CL法は、量子モンテカルロ法が適用できない系も扱える一方、物理量が正しい値に収束しない例が存在する。本発表では、そのような系のLefschetz thimbleの構造を変形させることにより、物理量をCL法で正しく評価する一般的な手法を紹介する。また、U(1)格子ゲージ理論の特別な場合に適用し、この手法が有用であることを示す。
- 星野 紘憲 (中央大学理工)
--- AdS/CFT対応を用いた非平衡定常状態の記述と運動量化学ポテンシャル, Nonequilibrium steady state and momentum chemical potential in AdS/CFT
AdS/CFT対応を用いると、非平衡定常状態を記述できる場合がある事が知られている。導体系を記述するAdS/CFT対応の模型を用いて、電流の振る舞いを記述するプローブブレーンの揺らぎを考えた場合に、(化学ポテンシャルの類似物として)運動量化学ポテンシャルが現れる。運動量化学ポテンシャルは電流などの関数として表される非平衡系特有の量である。本発表では、この量の振る舞いなどを議論する。
- 近藤 慶一 (千葉大院理)
--- 有限温度ヤンミルズ理論における閉じ込め/非閉じ込め転移の解析的導出とQCDにおけるクォークフレーバーの影響, An analytical derivation of confinement/deconfinement transition in Yang-Mills theory and the influence of quark flavors in QCD
最初に,有限温度ヤンミルズ理論における閉じ込め/非閉じ込め転移の存在の解析的導出を与える。このために,ポリヤコフ ループ期待値の有効ポテンシャルをヤンミルズ理論の新しい定式化に基づいて計算し,転移温度の評価を,この定式化では導入することが許されるゲージ不変なグルーオン質量との比の値で与える。このグルーオン質量は格子上で測定することもできる。この結果は,なぜ非閉じ込め相から閉じ込め相への転移がある有限温度で起こるのか,その機構は何かを理解することを可能にする。次に,この方法をQCDに適用しクォークフレーバーが閉じ込め/非閉じ込め転移に与える影響を探る。
- 田島 裕之 (慶大理工)
--- 調和ポテンシャル中の冷却フェルミ原子気体の局所スピン帯磁率における非一様な強結合効果, Local spin susceptibility and inhomogeneous strong coupling effects in an ultracold Fermi gas in a harmonic potential
Fechbach共鳴によって粒子間相互作用を自在に制御できる冷却フェルミ原子気体において、観測量に現れる強結合効果が注目を集めている。本研究では、近年実験的に測定可能となった局所スピン帯磁率を、強結合理論と局所密度近似の枠組みで解析する。非凝縮Cooper対の形成により、局所スピン帯磁率はトラップ中心部近傍で非単調な温度依存性を示す。これは銅酸化物超伝導体で見られるスピンギャップ現象と類似の現象であると考えられる。さらに、この物理量が、トラップ中心部から原子雲末端領域までの空間依存性においても強結合効果を強く反映した振舞いを見せることを示す。
- 只木 孝太郎 (中部大工)
--- アルゴリズム的情報理論の統計力学的解釈, Statistical Mechanical Interpretation of Algorithmic Information Theory
アルゴリズム的情報理論はprogram-size complexityの理論である。任意の有限2進列xのprogram-size complexity H(x)は、万能チューリングマシンUにxを出力させる入力(プログラム)のうち、最小のものの長さとして定義される。本発表では、次の同一視(1), (2)を行うことにより、アルゴリズム的情報理論の枠組みの中に平衡統計力学を構築する:(1) Uのプログラムpを、量子系のエネルギー固有状態と同一視。(2) プログラムpの長さを、そのエネルギー固有状態のエネルギーと同一視。本発表ではこのようにして、アルゴリズム的情報理論に分配関数および熱力学的量(エネルギー、自由エネルギー、エントロピー、比熱)の概念を導入する。そして、これらどの量についても、その圧縮率をprogram-size complexityで測ると、それは温度Tに等しいことを示す。特に、温度Tの圧縮率は温度Tに等しいという「圧縮率に関する不動点定理」を導く。
- 河野 宏明 (佐賀大院工学系)
--- 有限密度におけるZ3-QCD と符号問題, Z3-QCD at finite density and the sign problem
有限密度におけるZ3対称なQCDを現象論模型を使って解析する。この理論では、低温での相図が現実のQCDと一致する事を示す。また、符号問題との関連について議論し、この理論においては、符号問題がmildである可能性がある事を示す。また、この理論から現実的QCDへのテイラー展開による接続方法について議論する。
- 岩崎 愛一 (二松学舎)
--- グラズマ崩壊によるクォーク・グル―オン・モノポールプラズマ生成, Quark-gluon-monopole plasma production by glasma decay
グラズマ崩壊で生成されるモノポールとグル―オンの比が、Gyullasy らが提唱する現象論的モデル(セミ・クォーク・グル―オン・モノポールプラズマ)で採用されるその比を説明しうることを示す。モノポールは閉じ込め相では凝縮しクォークを閉じ込め、QGP相では、温度がTc近辺ではグル―オンと強く相互作用し、QGPの小さな粘性を生みだす。そのモノポール数はグル―オン数と比べTc近辺では優勢であり、十分高温になるとグル―オン数が優勢になる。この現象論的モデルの仮定を、重イオン衝突直後に発生するカラ―電場・磁場の、Nielsen-Olesen モード(グル―オン)とモノポールの生成率から説明する。
- 鎌田 紀彦 (東北大学)
--- 改良されたWilson flow を用いた熱力学量の格子QCD計算, Improved approach of Gradient Flow for thermodynamic quantities in lattice QCD
近年、Gradient Flowと呼ばれる手法を用いることで、並進対称性が明確に破れている格子上においてもエネルギー運動量テンソルが構成できることが提案された。現在までに最も単純な作用を使用した熱力学量の計算が行われている。当研究では、この先行研究に対して改良された作用を適用することで実用性の向上を模索した。
- 北沢 正清 (阪大理)
--- 保存電荷非ガウスゆらぎの拡散現象, Diffusion of non-Gaussian fluctuations of conserved charges
重イオン衝突実験において観測される保存電荷の非ガウスゆらぎに、ハドロン化以降の拡散現象が及ぼす効果を考察する。ハドロン化から運動学的凍結までの拡散現象を独立なブラウン粒子からなる模型を用いて議論するのに加え、運動学的凍結時の熱運動が時空ラピディティとラピディティを同一視する従来の議論にもたらす効果を論じる。また、両者の効果を同時に取り込んだうえで、保存電荷ゆらぎの実験的観測値を衝突初期の熱的性質と結びつける議論を行う。
- 池田 惇郎 (大阪大学)
--- 最大エントロピー法による有限温度媒質中のベクターメソンの縦波と横波の解析, Transverse and longitudinal spectral functions of charmonia at finite temperature with maximum entropy method
有限温度媒質中におけるチャーモニウムのスペクトル関数の運動量依存性を格子QCDと最大エントロピー法を用いて解析した。
媒質中においてベクターチャネルのスペクトル関数はLorentz対称性の欠如により、縦波と横波に分離する。
クエンチ近似で計算した相関関数から、最大エントロピー法を用いて復元したスペクトル関数より、縦波と横波の分散関係および留数の運動量依存性を読み取り、比較する。
- 金 泰広 (阪大理学)
--- 光子・レプトン対生成率の格子クォーク伝搬関数を用いた非摂動的解析, Non-perturbative photon and dilepton production rates analyzed with the lattice quark propagator
本研究では、格子QCD数値解析より得られたクォークスペクトル関数を用いて、非閉じ込め相からの光子とレプトン対の生成率を解析した。媒質中の光子の自己エネルギーを計算する際、光子-クォーク頂点関数は、ゲージ不変性の帰結であるWard-高橋恒等式を満たす様に決めた。レプトン対生成率の低不変質量領域においては、摂動論よりも大きな生成率が確認された。また光子生成率の運動量スペクトルには、準粒子の運動学を反映した特異な構造が存在した。
- 上門 和彦 (理研)
--- 非一様カイラル凝縮相での低エネルギー励起, Phonons, Pions and Quasi-Long-Range Order in Spatially Modulated Chiral Condensates
本講演ではQCD相図中において空間的に非一様なカイラル凝縮が実現した場合の低エネルギー励起について議論する。カイラル凝縮の振幅が空間依存性を持ついわゆるLarkin-Ovchinnikov (LO) 相では、カイラル対称性の破れにともなって出現するパイオンに加えて、格子振動に対応するフォノンが出現する。対称性の議論からフォノンの分散が強い異方性を持つことを示し、LO相が実現される模型を用いて実際にフォノンとパイオンの分散関係を導出する。フォノンの熱ゆらぎが熱力学極限では非一様なカイラル凝縮相を不安定化させることを示し、有限体積の系でのゆらぎの強さについても議論する。
- 小川 軌明 (理研)
--- ゲージ/重力対応によるヘビークォーク対称性, Holographic Heavy Quark Symmetry
QCDスケールよりも重いクォークを持つ理論のホログラフィック模型を構成し、それを用いて重メソンのスペクトラムを計算した。その結果、いわゆるヘビークォーク対称性はこの模型では僅かに破れており、最大1%程度のずれがあることを見出した。
(橋本幸士氏、山口康宏氏との共同研究に基づく。)
- 本郷 優 (東大院理(勤務地:理研))
--- 異常輸送現象を含む非散逸性流体力学の幾何学的定式化, Geometric formulation of non-dissipative hydrodynamics including anomaly-induced transport
流体力学は系の長波長・長周期のダイナミクスを記述する低エネルギー有効理論である.散逸を含む1次の流体力学の基礎方程式はナビエ・ストークス方程式と呼ばれ,現象論的には古くから知られており,重イオン衝突実験で生成されたクォーク・グルーオン・プラズマの記述などに広く用いられている.しかし近年になって,カイラルフェルミオンで構成されるようなパリティ対称性が破れた系ではカイラル磁気効果(Chiral Magnetic Effect)やカイラル渦効果(Chiral Vortical Effect)といった非散逸性の輸送現象が存在することが指摘され,従来のナビエ・ストークス方程式では記述されない非散逸性の補正が議論されている.本研究ではフェルミオンで構成される系が局所平衡状態にあるときの熱力学ポテンシャルを生成汎関数として表し,それが”曲がった時空(虚時間+空間)中”の場の理論として定式化できることを示す.またその枠組みの中で,カイラル磁気効果のような非散逸性の輸送現象がどのように記述されるかについても簡単に紹介する.
- 市川 和秀 (京大院工)
--- 量子電磁力学に基づく時間空間分解シミュレーション方法の研究, Study of space-time-resolved simulation method based on QED
量子電磁力学(Quantum ElectroDynamics; QED)に基づいて系の時間発展を時々刻々と追跡するためには、従来の共変摂動論による方法では不十分であり、非摂動的な方法の開発が必要である。また、質点系の量子力学のように波動関数の時間発展を計算するだけでは不十分で、場の演算子の時間発展も合わせて計算する必要がある。われわれは相互作用するMaxwell場とDirac場の量子場の方程式を正準量子化のもとで数値的に解く方法を研究しているが、その定式化と数値計算コードの現状について報告する。
- 今井 良輔 (早大基幹理工)
--- 非平衡Thermo Field Dynamicsに基づいた非平衡定常状態の解析, Analysis of nonequilibrium steady state in nonequilibrium Thermo Field Dynamics
場の量子論に基づいた非平衡過程の記述には様々な方法が存在するが、非平衡Thermo Field Dynamics(非平衡TFD)の形式は非平衡過程中の各時刻で非摂動粒子数分布が明確に定義されるという特徴を持っており、この点で非平衡定常状態の解析において有利であると考えられる。本研究では、非平衡定常状態の単純な例として複数の熱粒子浴に接する系における動力学を非平衡TFDによって調べ、非平衡定常状態への緩和過程や非平衡TFDで記述される非平衡定常状態の性質について議論する。
- 中村 祐介 (早大基幹理工)
--- 捕捉された冷却原子気体Bose-Einstein凝縮体に対するゼロモードの温度効果, Thermal effect of zero mode for confined Bose-Einstein condensate
捕捉された冷却原子気体系を対象とし、有限温度においてゼロモード(南部-Goldstoneモード)が与える効果を解析する。非摂動ハミルトニアンにゼロモード間の相互作用を取り入れることで、赤外発散を除去しゼロモードの量子状態を一意に決定することが出来る[Y. Nakamura, J. Takahashi, and Y. Yamanaka, Phys. Rev. A. 89, 013613 (2014).]。有限温度では原子間相互作用が弱い場合、ゼロモードが大きく寄与し凝縮率が大きく下がることを示す。
- 益田 晃太 (東大院理/理研)
--- 中性子3P2超流動体の諸性質, Some Properties of Neutron 3P2 Superfluidity
中性子星内部で実現することが期待される中性子^3^P_2_超流動体を記述するギンツブルグ-ランダウ方程式を紹介し、6次項、磁場項が基底状態に与える影響、回転(渦)をいれた際に運動項がもたらす影響について考察する。更に境界条件として整数渦、半整数渦を課した場合に渦コアに生じる自発磁化の値を計算し、中性子星観測量に与えうる影響についてもコメントする。
- 森田 健司 (京大基研)
--- リー・ヤンゼロ点に対するフガシティー展開の打ち切り効果, Truncation effects on Lee-Yang zeros from fugaicity expansions
ランダム行列模型におけるカノニカル分配関数を求め、フガシティー展開を通して大分配関数を構成することによって、模型における相境界と、リー・ヤンゼロ点、フガシティー展開の高次を無視した状況におけるリー・ヤンゼロ点の比較を行った。高次の係数は格子QCDのカノニカル分配関数と、実験におけるバリオン数多重度分布の裾の部分にあたり、ともに測定が難しい。本研究では、裾の情報をどこまで取り入れれば、相境界に対応するゼロ点が得られるかを議論する。
- 坂井田 美樹 (阪大理)
--- QCD臨界点近傍における保存電荷ゆらぎの時間発展, Time evolution of fluctuations of conserved charges near the QCD critical point
臨界点近傍で保存電荷ゆらぎが示す特異な臨界現象は、QCD臨界点の実験的探索における重要なシグナルになると期待されている。ただし、重イオン衝突実験で生成される系は動的であるため、臨界点付近のゆらぎを理解する上では臨界減速等の動的臨界現象の効果が重要であることが知られている。しかし、秩序変数場に対する動的臨界現象の効果を考察した先行研究は存在するが、実験で直接観測される保存電荷ゆらぎに対する動的臨界現象の効果はこれまで議論されていない。本研究では保存電荷ゆらぎと秩序変数場に関する非線形連立微分方程式を考察することにより、実験で観測される保存電荷ゆらぎに対する動的臨界現象の効果を検証する。
- 川口 拓磨 (早大基幹理工)
--- 冷却原子系ダークソリトンにおけるゼロモードの量子揺らぎの解析, Analysis of quantum fluctuation of zero modes for the dark soliton in a cold atom system
Bose-Einstein凝縮体において実現されるダークソリトン系では、系の位相変換対称性と並進変換対称性の2つの対称性が自発的に破れている。これに付随して南部-Goldstoneモードあるいはゼロモードと呼ばれる素励起が2つ現れる。これらのゼロモードの量子揺らぎによる効果がダークソリトンの消失過程に寄与していることを見る。
- 築地 秀和 (京大基研)
--- Yang-Mills場の理論におけるエントロピー生成の解析, Analysis of entropy production in Yang-Mills field theory
RHICとLHCにおける相対論的重イオン衝突実験の流体模型に基づく解析は系の「早い熱化」を示唆しており、その背景にある機構の解明は理論的に興味深い課題である。衝突直後に実現すると考えられている状態(いわゆる「グラズマ」)は第一近似として古典ヤン-ミルズ場としての扱いがよく、初期の量子揺らぎに対して不安定性を持つことが知られている。このため量子効果を何らかの形で取り入れて、熱化の指標であるエントロピーに注目することが重要であると考えられる。本研究では量子論的なエントロピーである伏見-バール(H-W)エントロピーの半古典的な解析を行う。前回の研究会では量子力学系において二段階モンテカルロ法(two-step MC)と試行粒子法(TP)の有効性について議論し、さらにヤン-ミルズ場にこの2つの手法を適用した。今回はヤン-ミルズ場における詳細の解析を進めるとともに、計算する際に用いた「積近似」についての理論的な考察を行う。
- 荒木 康史 (東北大金属材料研・学際フロンティア研)
--- ディラック半金属における電子相関と格子ゲージ理論, Lattice gauge theory treatment of strongly correlated Dirac semimetals
3次元中で線形の分散関係によって電子が記述される「ディラック半金属」は、2次元におけるグラフェンに類似したものであり、近年様々な物質中で実験的に実現されている。本研究ではディラック半金属中の電子間相互作用の効果を、量子電磁気学(QED)から出発し格子模型を適用することにより取り扱う。特に強結合において、スピンSU(2)対称性の破れに伴う反強磁性等の秩序に関して述べ、斥力ハバード模型との類似性について議論する。また、弱結合において得られている繰り込み群のフローとの整合性に関しても述べる。
- 谷口 裕介 (筑波大学物理)
--- カノニカル法で発見した格子QCDの有限密度相転移現象の研究, Study of high density phase transition in lattice QCD discovered with canonical approach
グランドカノニカル分配関数からfugacity展開によって定義されるカノニカル分配関数の経路積分表示は格子QCDにおいても複素作用の問題を持たない事が古くから議論されてきた。
この研究ではクォーク質量を重い領域に限定する事で、fugacity展開をhopping parameter展開として解析的に実行し、カノニカル分配関数をバリオン数にして30個程度分の領域まで求めた。
更にそれを用いることで、chiral condensateやクォーク数密度をはじめとする期待値の直接測定を行い、有限密度相転移と思われる現象を観測した。
この講演ではクォーク質量と格子体積を変化させることで、この相転移現象の性質を探っていく。
特にこの相転移が物理的なものであるか否かについて注目をしていく。
- 柴田 章博 (KEK計算科学センター)
--- SU(3) Yang-Mills 理論における閉じ込め・非閉じ込め相転移と双対超伝導描像 -- アーベリン磁気的モノポール 対 ノンアーベリアン磁気的モノポール --, Confinement/deconfinemet phase transition in view of dual superconductivity -- Abelian monopole versus non-Abelian monopole responsible for confinement-
クォークの閉じ込め機構は、双対超伝導描像が有力視されている。 我々は、 Yang-Mills 理論の新しい定式化をおこない、ゲージによらず閉じ込めに寄与するモードを抽出することを可能とした。SU(3) Yang-Mills 理論では、2種類のゲージ不変なYang-Mills場の分解:従来の最大可換ゲージにおけるアーベリアン射影に等価なゲージ共変なmaximal option とノンアーベリアン双対超伝導描像を導く minimal optionとがある。 これまでの研究では、格子ゲージ理論にもとづく数値解析によって、minimal option におけるノン アーベリアン双対超伝導描像を提唱し、検証を行ってきた。
本講演では、maximal option に基づく双対超伝導の観点から、閉じ込め機構及び閉じ込め・非閉じ込め相転移についてminimal option と対比することによって 再検証を行う。
- 高橋 純一 (九大院理)
--- LLR algorithmによる有限密度系の格子QCD計算, Lattice QCD calculations at finite density by using LLR algorithm
最近、状態密度を計算するアルゴリズムとしてLLR algorithmが提案された。先行研究ではSU(2)とSU(3)のpure gauge系において、系のエネルギーの状態密度が求められている。また、SU(2)のpure gauge系ではポリヤコフループに対する状態密度も求められている。我々はこのLLR algorithmを用いて、SU(3)のpure gauge系でのポリヤコフループに対する状態密度を求める。この研究から有限密度系の格子QCDへLLR algorithmが適応出来るかを議論する。
- 石井 優大 (九大院理)
--- 中間子遮蔽質量によるU(1)_A 対称性の回復の決定, Determination of U(1)_A restoration from meson screening masses
カイラル相転移とU(1)_A対称性は密接に関係している. u, dクォーク質量がゼロの極限(カイラル極限)において, U(1)_A対称性が実効的に回復しているとカイラル相転移の次数が2次から1次へと変わりうることが, Pisarski・Wilczek氏らによって指摘された. この可能性について格子QCDや有効模型で議論されているが, 次数は未だ確定していない. そこで, 我々はEPNJL模型を用いてU(1)_A対称性の回復とカイラル相転移の関係を調べる. U(1)_Aパートナーの遮蔽質量をEPNJL模型で計算し, 格子QCDの計算結果と比較することで, U(1)_A対称性の回復を有効模型に取り込む. この模型を用いてColumbia plotを描き, カイラル極限におけるカイラル相転移の次数を議論する.
- 長尾 一馬 (京大基研)
--- 超流動Bose原子気体のNambu-GoldstoneモードとHiggsモードの減衰に対する有限温度の効果, Finite-temperature effects on damping of the Nambu-Goldstone and Higgs modes of superfluid Bose gases in optical lattices
光格子中の超流動Bose原子気体が持つ集団励起の減衰を研究する。特に有限温度の効果に着目する。系は絶縁体-超流動量子相転移点近傍で、かつ整数充填率であると仮定する。このとき集団励起モードとして、秩序変数の位相ゆらぎに対応するNambu-Goldstoneモードに加えて、振幅ゆらぎに対応するHiggsモードが存在する。研究の目的は、この二つのモード間に働く相互作用がもたらす効果を、各モードの減衰に着目して理解することである。実際の解析では、系を記述するBose-Hubbard模型を有効的なスピン1模型で近似することから出発する。この有効模型をSchwinger bosonを用いて表示し、次にスピン波理論を適用し、そしてBogoliubov変換を施すことで、二つのモードに対応する対角項を持つ模型を得る。この模型に対して温度Green’s関数法を適用することで、各モードの減衰率を計算する。長波長近似の範囲内で、各モードの減衰率に対して簡単な表式が求まることを示す。その表式より、ある固定された温度に対して、Nambu-Goldstoneモードの減衰率が特徴的な相互作用依存性を持つことを示す。具体的には、相互作用をMott転移点に近づけるにつれて、減衰率があるしきい値を境に急激に増大することを示す。また、Higgsモードの減衰率が有限温度補正項を持ち、絶対零度においてAltmanとAuerbachの結果を再現することを示す。さらに数値的な手法を用いて、より正確な相互作用依存性を求める。
- 吉池 遼 (京大理)
--- 非一様カイラル相におけるクォーク物質の自発磁化, Spontaneous magnetization of quark matter in the inhomogeneous chiral phase
近年、カイラル凝縮が空間非一様になっている非一様カイラル相の性質とその存在について議論されている。本研究では"Dual chiral density wave"(DCDW)相においてクォーク物質が自発磁化を持つ可能性を示す。この自発磁化は外場中でエネルギースペクトルが正負非対称になることに起因しており、また中性子星の持つ強磁場の候補となりうるものである。
- 田中 周太 (東大宇宙線研)
--- 高輝度光子場の冷却過程:誘導コンプトン散乱, Avalanche Photon Cooling by Induced Compton Scattering
高輝度光子場は実験室でのレーザー光、天体現象としてはパルサーからの電波パルス、高速電波バーストなどで観測される。ここで高輝度とは光子場の輝度温度で特徴付けられ、その温度は10^40Kを上回るものが観測される。このような高輝度放射と希薄プラズマとの相互作用は、自発のコンプトン散乱よりも誘導コンプトン散乱が卓越し光子場の冷却が起こる。しかし、誘導コンプトン散乱は光子とプラズマの非線形相互作用であり、その過程は詳しく調べられていなかった。我々は、カンパニエーツ方程式を高次展開することでその非線形段階における発展を記述する方程式を導き、その発展を追うことに成功した。本講演ではその結果(Tanaka et al. 2015, PTEP, 07301E)を報告する。
- 西山 和也 (京大)
--- Inhomogeneous chiral condensate in the external magnetic field within NJL model, Inhomogeneous chiral condensate in the external magnetic field within NJL model
磁場中のカイラル非一様相の性質を、NJL模型を用いて解析した。
- 堀田 健司 (北海道大学 大学院 理学院 宇宙理学専攻 素粒子論研究室)
--- Closed Superstrings at Finite Temperature in the Framework of Thermo Field Dynamics, Closed Superstrings at Finite Temperature in the Framework of Thermo Field Dynamics
弦の有限温度系は、現在多くの場合松原形式で研究されているが、熱場ダイナミクスによっても少なからず研究されている。以前Dブレーン・反Dブレーン対の有限温度系を熱場ダイナミクスで解析したことを報告したが、今回は超弦理論における閉弦の有限温度系を熱場ダイナミクスで調べた。光円錐超弦場理論を用いて閉弦の理想気体の熱真空状態を求め、それを基に閉弦の自由エネルギーを計算し、松原形式で計算したものと一致することを確かめた。この仕事は、超弦理論におけるホーキング・ウンルー効果を調べるための布石となるものである。
- 前澤 祐 (京大基研)
--- 格子QCDによる空間相関から迫る中間子熱変化と破れた対称性の回復, Mesonic thermal modification and restoration of broken symmetries from spatial correlation in lattice QCD
有限温度における中間子の状態変化と破れた対称性の回復を空間相関関数を用いて研究した。
空間相関は中間子のスペクトル関数の温度変化の度合を表す直接のシグナルとなり、また高温におけるカイラルとU_A(1)対称性の回復を測る指標となる。
高改良スタッガード型作用による2+1フレーバー格子QCDシミュレーションの結果、軽いクォークを含む中間子(\pi, K, D)は類似した温度変化を示し、その状態は転移温度(Tc)以下でも強い熱揺らぎの影響を受けることが分かった。
またパリティー相違の相関関数の縮退からカイラル対称性は転移温度で回復することが裏付けられ、一方U_A(1)対称性は1.6Tc程度で回復することを見出した。
この性質は現実のクォーク質量でのシミュレーションでも確かめられた。
- 関口 雄一郎 (東邦大学)
--- r過程元素合成と中性子星合体, r-process nucleosynthesis and binary neutron star merger
rプロセス元素合成の起源天体として、2010年頃までは超新星爆発が有力視されていたが、近年の理論研究により、超新星爆発を起源天体とする場合には、観測と合致するような元素合成パターンを達成するのが極めて難しいことが明らかとなった。代わって注目を集めているのが、コンパクト天体(中性子星およびブラックホール)連星の合体時に放出される中性子過剰の物質中でのrプロセス元素合成である。本発表では特に連星中性子星合体の場合に着目し、合体時に放出される物質の特性と、rプロセス元素合成過程についてまとめる。